東京では木枯らし1号も吹き、次第に冬支度が進んできているようです。
皆様お元気でお過ごしでしょうか。私たちはお陰様で、《ヨハネ受難曲》
に向けての練習を滞りなく進めております。練習も佳境に入ってきたこの頃、
そろそろ即物的な譜読みの段階を脱して、バッハが音に込めた意味の解明
や、楽曲の背後にある宗教的メッセージを如何にして曲作りのなかに生かし
ていくか、という点にも意を配らなければなりません。前回の練習で、私は
ある曲について、その背後にある「聖書のメッセージに従った解釈」を示し、
全体に緩いディミュニエンドをかけて演奏するように求めました。団員は
即座にそれを実行したのですが、どこからともなくこの表現法に対する異議が
沸き起こってきました。すなわち、「指揮者の表現意図は了解するが、実際に
歌う側には不自然、『心余りて言葉足らず』という感じだ」というのです。ここ
から議論は白熱し、何人もの団員が自分なりの意見と表現を提案しました。
私はそれを交通整理して、実際に指揮、演奏して皆に諾否を求める、という
立場に立ったのですが、私がこの合唱団を指揮して一番幸せな瞬間は、こうした
白熱した時間に他なりません。団員は、私の意見を冷笑して葬り去ったのでは
なく、それを土台にしながらも、納得行かない表現に対しては断固異議を申し
立てたわけです。これが言うは易く行うは難き業であることは皆様容易にご想像
いただけると思います。こうした雰囲気を大事にしてくれる団員たちに、私は
全幅の信頼を置いております。私も彼らに負けないように、さらに勉強を重ねて
行かねばなりません。そして、素晴らしい客演の方々からも吸収すべきことは
たくさんあります。こうした刺激を良く消化して、当日はスコラ・カントールムら
しい、気迫溢れる演奏をご披露したいと思います。当ホームページ上でもチケットの
受付をさせていただいておりますので、どうぞ皆様お誘い合わせの上、2000年
3月20日は王子ホールに足を運ばれますようお願い申し上げます。それでは、
当ホームページをごゆっくりお楽しみください。