皆さま、明けましておめでとうございます。子供の頃から漠然と考えて
いた、しかし全く実感が湧かなかった21世紀という時代に突入したわ
けですが、日本の世相はお祭り騒ぎをするには程遠いものです。年末
になると物騒な事件が起こっていたのは昔も変わりませんが、最近は
その事件の質が根本的に変化しているようです。暗い話で恐縮です
が、現金輸送車が狙われる時、こうも簡単に拳銃で人の命が奪われ
ていたでしょうか。高校生という、ある程度の自我と判断力を持った
世代の子供たちが、一万五千円のお金を手にするために、何のためら
いもなく人の首をかき切り、その後平気でホテルに泊まっていたという
ことがかつてあったでしょうか。私の勤め先では幸いにしてこのような
事件は起きていませんが、対岸の火事ではありません。私にとって
の2000年はまさしく「バッハ・イヤー」として忙しくのみ過ぎていった
わけですが、昨年末のニュースは私をもう一度現実の世界に引き戻し
ました。
こうした、人間性の閉塞状況ともいえる事態に対して、音楽はそれ自
体で何かしら実行力を持ち得るのでしょうか。数年前から、「ヒーリン
グ・ミュージック」あるいは「癒し系音楽」という名前で、心をあたため
る音楽として古楽が注目されてきました。しかし、あのグレゴリオ聖
歌の爆発的ヒットも、結局は一過性のものでした。世界中で古楽を
聴く人は確実に増えていると思いますが、その効果で凶悪犯罪が
減ったという話は聞きません。音楽はそれを自ら求める人のためにあ
ります。情操教育としての音楽を盛んにすれば子供の心のささくれも
治るだろう、と考えるにはあまりに厳しい時代を私たちは生きているよ
うです。
この11年、自分の中で教育という仕事と、演奏活動、あるいは解説の
執筆といった音楽活動を両立することに意を用いてきました。新たな年
もその意欲に変わりはありません。しかし、今年は11年住み慣れた秋
川高校を去り、新たな境遇に身を置くことになります。もう一度、「教師
としての自分」を冷静に自己反省しながら、新しい場で新しい若者たち
を育てていこうと思います。カラオケの流行に象徴されるように、音楽が
好きな子供たちはたくさんいます。しかし、合奏や合唱という「人と力を
合わせる」ことは苦手な子が多いのです。ですから「音楽が好きな青年」
を育てることも大事ですが、「音楽を愛する人間」を愛することのできる
青年を育てなくてはなりません。
ともかくも21世紀はスタートしました。私もスコラ・カントールムも、新たな
気持ちで努力を重ねて参ります。どうぞ本年もご指導ご鞭撻ください。
さて3月24日の第10回定期演奏会につきましては、すでに昨年中に
詳細をアップいたしましたが、今年は念頭からもうひとつ、私たちにとって
大きな出来事がございます。2月1日に、スコラ・カントールムとして初め
てのCDである「シュッツ/《マタイ受難曲》」が発売されることになりまし
た。これは1999年3月に行われた「第2回特別演奏会」の実況録音です。
詳しくは別項をご覧ください。このホームページ上でも購入のご予約を申し
受けております。演奏会ともども、皆さまよろしくお願い申し上げます。
では当ホームページをごゆっくりお楽しみください。