主宰者(指揮者)ご挨拶


10月を迎えました。今年の夏は7月が猛暑、8月はそれを引きずるかと思いきや例年並の暑さとなり、いつの間にか秋の気配を感じているうちに2001年も残すところあと3ヶ月です。個人的なことですが、今年の私は秋川高校の閉校とそれに伴う転勤という生活環境の激変を経験し、未だに多少とまどうことの多い年となっています。すっかり涼しくなった戸外の風に触れながら、あっという間に過ぎ去った月日の重さが身にしみる今日この頃です。スコラ・カントールムにとっても、練習は時間との戦いであります。今までの練習を振り返ってみますと、商売柄とはいえ、果たして時間を有効に使えていたのか、と反省すべき点のみ多く浮かんできます。第3回目となった特別演奏会、「クリスマス・コンサート」まであと2ヶ月半となりました。宣伝用のチラシなども完成間近で、いよいよ演奏会シーズンが近づいたのだな、という感を新たにします。仕上がりの度合いも、現段階でとしてはそれなりに納得いくものにはなっておりますが、この残された時間を大切に使って、少しでも感動的な演奏を皆様にお届けしたいと思います。

今回の演奏会の特色は、おなじみのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者・福沢宏さんと、バッハ・コレギウム・ジャパンで活躍なさっているオルガニストの今井奈緒子さんが、1ステージたっぷりとデュオ・プログラムを組んでくださることです。これまでもスコラ・カントールムは、日本を代表する若手オリジナル楽器奏者や歌手の皆さんと共演する幸せに恵まれてきました。その際、合唱団との共演の他に、せっかく集まってくださった皆さんで何か良い企画を立てることができないだろうか、という考えは常に私の頭の中にありました。例えば椋本浩子さん(故人)と、アルトの穴澤ゆう子さんが組んだヘンデルの二重唱カンタータ(第7回定期演奏会)や、前回(第10回)定期演奏会での、ヴァイオリン2本と通奏低音によるイタリア初期バロックのトリオ・ソナタの演奏などです。考え方によっては、名手をお迎えしてのことだけに、合唱団の演奏が「食われてしまう」という危険を心配する向きもあります。しかし、私も合唱団員も、そうした考え方に与したことは一度もありません。スコラ・カントールムは、私たちの合唱を少しでも良い形で皆様に聴いていただきたい、と考えて練習に励んでいます。客演の方々が素晴らしい気迫と音楽内容をもって演奏してくだされば、それは必ず客席と同時に、合唱団員にも伝わります。そして、不思議な相乗効果がもたらされるのです。前述の第7回演奏会などはその典型例で、メインステージとして構想されたヘンデルの合唱曲《主は言われた》では、客席もステージも直前の快演の余韻を引き継ぎ、練習時には考えられなかったパワーが炸裂したのにびっくりしました(その代償として、いくつか細かな演奏上の事故は起きてしまったのですが・・・)。俗にこれは「ノリが出た」とか「気合いが移った」と形容される状態ですが、こうした経験を積むことは個々の団員にとって貴重な経験となります。そして何より、お忙しい中足を運んでいただいているお客様にとっては、素晴らしい演奏が1曲でも多く聴けたほうが喜ばしいことは自明の理でありましょう。確かに演奏会の基幹を築くのは合唱団であり、その責任と注目度は突出しています。しかしだからといって演奏会全体で合唱団だけが常に主役におさまり続けなければならない理由はどこにもありません。

このことに関連して思い出されるのが、バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督の鈴木雅明氏の発言です。鈴木氏はあるインタビューの中で、バッハのカンタータ演奏に関してこう述べています。「カンタータは包括的にバッハのあらゆる要素が含まれているジャンル。でも主人公がいないジャンルでもある。だから一般的に考えると、演奏者はみんな欲求不満で終わるかもしれない。ソリストの出番もちょっと、合唱も最初と最後ですから。音楽そのものに魅力を感じる人でないと、バッハはだめですね」(太字強調は野中)。バッハのカンタータについて述べられているという事情や、プロ集団とアマチュア合唱団との格差を考慮したとしても、これは私たちにも大きな問題を含んだ発言です。

今回のように、まるまる1ステージを客演にお任せする、というのは当団にとっては前例のないことですが、私は上に記したように考えて、迷わずにこの企画を実行に移しました。これで4回目の共演となる福沢さんへの厚い信頼も、そこには込められています。私たちの熱演を聴いていただきたいのももちろんですが、客演ステージにもご期待くださって、当日はひとりでも多くの方が護国寺・同仁キリスト教会においでいただきますようお願い申し上げます。それでは、当ホームページをごゆっくりお楽しみください。

2001年10月1日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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