主宰者(指揮者)ご挨拶


皆様、合唱団スコラ・カントールムのホームページにようこそおいでくださいました。私たちは約1ヶ月の夏休みを終え、8月25日から演奏会シーズンに向けて再始動致しました。練習の再開にあたって私が最も危惧したことは、団員が純粋な声楽ポリフォニーの歌い方を忘れてしまっているのではないか、ということでした。スコラ・カントールムは、結成以来必ずレパートリーの中にジョスカン・デ・プレ、オルランドゥス・ラッスス、ウィリアム・バードらに代表される、いわゆる「ルネサンス期のア・カペラ合唱曲」を入れています。これには大きな理由があります。もちろん、創設期の団員たちの愛好するジャンルがここであったというのが一番大きな理由です。しかしその後団員が増え、こうしたジャンルを歌うにはちょっと太りすぎたかな、という時にも、声部数の多い曲を選ぶなどして、何とかして歌い続けてきました。

これらの古いポリフォニー曲は、あらゆる合唱団にとって永遠の基本フォームだと思うのです。他人の声を聴き合い、パートからパートに受け渡される主題や楽句を、それこそガラスでできた壊れやすい品物を扱うかのように、細心の注意を払って歌っていかねばなりません。自分勝手に乱暴に歌い出すことは決して許されませんし、考えなしに、いつまでも気持ちよく主題を歌っていれば次の声部の入りを邪魔してしまいます。ピアノを学ぶ人にとって「バッハのフーガを弾くことは手や指の独立に役立つし、のみならず演奏の基礎的姿勢の確立にとってさまざまな面で有益である」と言われるのと同じ原理です。こうしたポリフォニー曲が思い通りに歌えなくなったとき、その合唱団の実力はまず間違いなく低下していると考えて差し支えないでしょう。ポリフォニーを歌うには、ただ単に力のある歌い手を揃えればよいというものでは決してありません。かといって力のない声がいくらパートとしてまとまったとしても、旋律線をしっかり歌うことができないばかりか、何よりその結果として生み出される和音に生命がなくなってしまいます。これは理屈ではなく、練習によって文字通り「体得」しなければならないものです。訓練を怠ればその結果はすぐに目に見える形で現れる、そんな手強い相手なのです。

さて25日の練習では、クリスマス・コンサートで演奏するバードの《マニフィカト》を全曲復習致しました。さすがに最初はおそるおそる、という感じで練習がスタートしましたが、1時間ほど歌っていくうちに何とか「カン」を取り戻してくれたようでほっとしています。もちろん発音をはじめとして(この曲は英語です)、まだまだこれから頑張っていかねばならないところだらけです。真摯に練習を重ねようと思います。しかし何より嬉しかったのは、練習を終えた後に「バードはいい曲だね」と語る団員の声があちらこちらから聞こえたことです。歌うには難しいポリフォニーを、まず歌う側が好きになることは大切なことです。今後もこの雰囲気を保てるよう、私も努力を続けなければなりません。

もちろん、こうした少人数で作るポリフォニックな世界だけが合唱の醍醐味ではありません。団員の中には、スコラ・カントールム以外にも合唱団の掛け持ちをしている者が多くおり、彼らはオペラの上演に挑戦したり、100人以上の合唱団で大規模なオーケストラ付きの曲を歌ったりしています。私は、それを大変好ましいことだと思います。いろいろな音楽を体験することで、スコラ・カントールムのレパートリーの特性を客観的につかむこともできるでしょうし、当団で日頃「大きな声で思い切り歌う」という快感に浸れない団員にとっては、そうした場は貴重な存在です。しっかりとした声量で、豊かな音楽のプロポーションを創造する、というのもまた合唱するという行為の基本フォームのはずですが、当団の練習では、意図的にそれを排除せざるを得ないからです。中には他の団でもルネサンス期の曲しか歌わない、という猛者もおりますが、それもまたひとつの見識です。

私も、指揮に専念するようになって8年が過ぎてしまいました。このあたりで、他の合唱団で受け入れてくださるところを探して、いろいろな曲を歌ってみようかな、などとと思っています。それがまたスコラ・カントールムの音楽づくりに資するところがあれば、この上ない喜びです。いよいよ9月に入ります。12月16日の「クリスマス・コンサート」の詳細も決定し、間もなくチケットの発売を開始いたします。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。それでは当ホームページをごゆっくりお楽しみください。

2001年8月27日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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