主宰者(指揮者)ご挨拶


思いのほか残暑が厳しかった9月が終わり、いよいよ秋も本番となってまいりました。何となく気候が不順だった今年は、秋空の爽やかさがひときわ心に滲みます。スコラ・カントールム秋の風物詩は、「栃木[蔵の街]音楽祭」です。今年は、パレストリーナの「教皇マルチェルスのミサ曲」。10月11日(土)の16:00から、いつもの栃木市民文化会館のエントランスホールで演奏致します。皆様のお出でを心よりお待ちしております。

毎年演奏して感じることは、このエントランスホールの音響の良さです。響きすぎず、かといってあまりに乾いた音でもない、いかにも「程の良さ」を体現した空間であることに驚かされます。エントランスホールですから、一般の音楽ホールのような閉鎖空間ではありません。周囲の雑音をシャットアウトできないのは当然ですが、それを補って余りあるほどの効果が存在します。

まず、小規模なアンサンブルを身近に感じるには打ってつけの大きさだということ。栃木市民文化会館の大ホールも優れたホールであることは間違いありませんが、例えばチェンバロの独奏などには広すぎる空間ではないでしょうか。この音楽祭では、栃木市が所有する素晴らしいチェンバロやフォルテピアノが大活躍します。地元の子どもたちに実際にこうした古楽器に触れてもらう機会を提供している点は特筆すべきですが、そうした楽器を気軽に聴くには、このエントランスホールは最適の場所です。堅苦しい音楽ホールではなく、こうしたオープンな場所の方が緊張せずに弾ける子どもも多いことでしょう。「メインステージ」としてこの空間を有効利用することを考えた音楽祭スタッフの皆様の慧眼には、ただ感服の至りです。

さらに、この場所が「エントランス」であることの効果は絶大です。会場に足を踏み入れると、すぐそこで演奏者が一所懸命音楽を奏でている。聴衆の心はつい先ほどまでの日常を離れ、音楽祭の世界に自然と引き込まれていきます。また演奏する側にとっても、曲の途中で新しいお客様が入ってこられ、自分たちの演奏に耳を傾けてくだされば、俄然気分も乗ってくるというものです(私は残念ながら、商売柄お客様に後ろを見せる位置におりますので、演奏が始まってしまいますと何人くらいがお聞きになっているのか知ることはできません。しかし、お客様が多く集まり、熱心に聴いてくださっているときには、それを背中で感じるとともに、団員の表情や歌の熱気で知ることができます)。同じフリースペースでも、入り口から遠く離れてしまってはこうした効果は望めません。

そういうわけで、私たちはすっかり栃木の「常連」にさせていただいています。もう何年も出演していますが、毎年緊張の連続です。と申しますのは、エントランスホールの舞台から出る音は、どうもかなりの割合で直接前方に飛んでいくからです。従って舞台後方にある階段の中間地点が、すべての音がブレンドされて一番聴きやすい場所になります。舞台上ではなかなか自分たちの出している音がどのように聞こえているかが確認できず、歌い手にとってはちょっと難しい会場なのです。しかし、栃木のお客様の反応がとても熱いものであることが、そうした困難を吹き飛ばす程の魅力です。椅子から立ち上がって拍手を送ってくださる方、「ブラボー」を掛けてくださる方、とにかく音楽専用ホールではなかなか味わいにくい「ライヴの醍醐味」が満喫できます。まさに澄んだ秋空のような爽快感が味わえるこの機会は、私たちにとってとても貴重なのです。

本日「栃木」前の最終練習が行われましたが、団員一同気合いは十分です。技術的に至らないところも多々あるかと思いますが、今年も精一杯、誠実な演奏をお聴かせしたいと思います。では、栃木でお目にかかれますように。


2003年10月5日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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