主宰者(指揮者)ご挨拶


今年の私を一言で言い表すならば、「多忙」に尽きます。音楽の方面でいくつか仕事をさせていただいたこともあるにはあるのですが、なんといっても本業は手を抜けません。ここへ来て、その本業のほうが異常なほどの急速な変革を余儀なくされています。今日は鍵盤がさわりたい、今日は本が読みたい、と思っても、家に帰れば寝る時間しか用意されていないというような状況です。これ以上はお話しするのを差し控えますが、ホームページの更新も思うように出来ないまま、あっという間に年末を迎えてしまいました。皆様の今年のご厚情に感謝し、来る年の一層のご支援をお願い申し上げる次第です。

今年のスコラ・カントールムは、特別な活動を行わず、定期演奏会と「栃木[蔵の街]音楽祭」に焦点を絞ってまいりました。今となってみれば、よい判断だったと思います。舞台裏をお見せするようで気が引けますが、3月の第12回定期演奏会後、8名の団員がさまざまな都合で退団・あるいは休団したのです。私にとっては大変なショックでしたが、それぞれ事情を抱えているアマチュアですから、むしろ今まで当団のために尽力してもらったことを心から感謝する以外はありません。そして嬉しいことに、今年も4名の新入団員を迎えることができました。当団は定期的な団員募集を行っておりません。適宜、現有団員が必要に応じて当団の方向性にあった声の持ち主を推薦してくる、という方法で団員補充を行っております。今回も、自らスコラ・カントールムで歌ってみたかったという意欲のある新人ばかりを迎えることができました。彼ら彼女らが出席すると、練習にも張りが出てまいります。もちろん、入団して半年ばかりでは、なかなか当団の持つトーンに慣れることは難しく、未だ試行錯誤が続いている状態ですが、フレッシュな感覚を持つ人が一所懸命に練習する姿は、見ていて本当にありがたいものです。

3月14日の定期演奏会まであと3ヶ月を切り、現在練習は佳境に入っています。しかし正直に申し上げれば、今回初めて取り上げるシェーンベルクでは、なかなか自分の思った音が出せずに苦しむ団員がまだ多くいます。私たちが多く歌ってきたルネサンスの合唱曲は、たとえ鋭い繋留や異様な半音階を持っていたとしても、結局は協和音を主体としています。しかしシェーンベルクの十二音技法(今回は純粋な十二音というよりはセリー[音列]主体の書き方ですが)は、これと全く異質な世界です。相手の音を聞きながら、相対的に音を作っていくことができません。歌う者全員が自分の音について確固とした自信と信念とを持っていなければ演奏できない曲なのです。その意味で、団員の主体性が問われる難曲に挑戦しているといえます。

でも私は、最後にものをいうのは練習量だと思っています。幸いなことに、今年はゆったりとした計画で、余裕を持って進んでくることができました。ここからが最後の追い込み、団員も演奏会を間近に控えて、練習量がどんどんと増えてくると思います。私たちはアマチュアです。そのこと自体に甘えを持たないでいる限り、たとえ最初は拙くとも、研究心と練習への真摯さが大事なのだと信じて私は14年間この合唱団を運営して参りました。私と同じ合唱人、それもアマチュアとしては相当な名歌手のなかには、向上心を失い、自分の持つ音楽的才覚を過大評価してひけらかし、他人や他の合唱団、果ては自分の入っている合唱団の演奏さえをもけなすような人がたまにいます。見ていて本当にもったいないな、と思います。当団は、これから演奏会に向けてまだまだ茨の道を歩むかもしれませんが、真摯さを失わず、しかし自らの姿を冷静に反省しながら進んで行くはずです。皆様、明年3月14日には、是非ともその成果をお聴きください。そして、忌憚のないご意見を頂戴できればと思います。

それでは、来る2004年が皆様にとって素晴らしい年になりますよう、お祈り申し上げます。


2003年12月23日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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