主宰者(指揮者)ご挨拶


ホームページの更新を怠っているうちに、あっという間に暦は2月を迎えました。第12回目となる私たちの定期演奏会まであと1ヶ月半あまりとなったわけですが、おかげさまで練習は快調に進んでいます。今回のプログラムのうち、シュッツの「音楽による葬送」はソロのアンサンブルと合唱の交替によって、テキストの宗教的内容を的確に描き出すように構成されています。ソリストには特別な客演を招かず、団員のうちから実力と適性のある者を選んでやってもらっています(特に難しいアルト・パートを除く)。年が明けてから、ソリスト部分も視野に入れ、全体の見通しを含めた練習を行ってまいりました。それによって曲全体のイメージがつかみやすくなるのでしょうか、合唱部分の統一感が随分と出てきたようです。もちろん油断せずにあとわずかの練習を組み立てていきますが、皆様のご期待に添える演奏会になるだろうと確信しております。お一人でも多くのお客様に聴いていただきたく、皆様お誘い合わせの上のご来場をお願いする次第です。

さてホームページの更新が滞っていたのは、もちろん本業が多忙を極めたためです。去る1月30日には東京都立高校の推薦入試が行われました。今年の入試は、住所により受験できる高校に制限を課していた「学区制」が撤廃されたほか、自分のセールスポイントを受験前に提出して評価対象とする「自己PRカード」の導入など、様々な改革に満ちた入試です。それに加えて中学校の調査書が今までの相対評価(クラスや学校で、良い成績と悪い成績を与える人数の比率が一定に定められている)から、絶対評価(本人の努力に応じて成績を決定する)に変わったこともあり、受験生にとっても高校側にとっても「読みにくい」入試となることは間違いありません。蓋を開けてみれば、今回の推薦入試は各校ともおおむね高倍率となりました。昨今の厳しい経済情勢に伴う現象とも言われていますが、実のところはもう少し時間がたってから冷静に分析してみなければならないでしょう。いずれにせよ、様々な変革と状況の変化に、私たち教育に携わる者はただ流されることのないように心しなければならない、と痛感します。

こんなことを考えたのは、今朝の新聞のトップで報じられたスペースシャトルの空中分解と無関係ではありません。素人が報道を鵜呑みにして云々することは慎まねばなりませんが、NASAではコストダウンが重要課題とされ、熟練技術者の数が減っていた上に機体の老朽化が重なり、事故の確率はかなり大きなもの(私の読んだ新聞によれば245分の1だそうです。旅客機の事故率100万分の1に比べれば、その大きさは一目瞭然です)に跳ね上がっていました。そのツケが回ったのだ、という論調があちらこちらで聞かれました。

矢継ぎ早に行われる一連の教育改革が、単に効率優先のものにならぬよう、「勝ち組」と「負け組」を峻別する機構としてのみ働かないよう、教育者自身が常に自問していくことが重要な時代になってきているのではないでしょうか。教育の世界に限ったことではありませんが、人間が人間を育てる過程においては、効率第一主義、数値目標達成主義だけでは対応しきれない部分があります。合唱団も同じです。効率の面から言えば、演奏会が近くなったら、譜読みが早くて力のある人を適当に引っ張ってきて、短期間で集中的に練習したほうがよいのかもしれません。しかし、合唱団のカラー、実力以上のものを発揮しうる「底力」は、そうした付け焼き刃では絶対に醸成されないものです。実力の底上げに関しては、一軍と二軍のようなグループを作り、演奏会に出られるか出られないかの緊張感を通して必死に練習させる、という方法もあります。でも少なくとも私たちの合唱団に関しては、それによって失われるものがあまりにも大きいと思うのです。メンバー全員が練習を共有し、その後の酒席などを共有することで、一体感を持ってひとつの目標に向かっていく現在の姿勢を、私は大事にしたいと思います。そして、長い時間をかけ、多くの無駄を生み出しながら、少しずつでも前進していきたいと願うのです。

もちろん、数値目標が無意味というわけではありません。例えば、集客数はとても重要です。今回は葬送音楽二本立て、という本当に渋いプログラムですが、ここでバッハのヨハネ受難曲を演奏したときと同じく300人以上のお客様にご来場いただき、こんなに良い曲が17世紀のはじめに存在したのだ、と知っていただければこれ以上の喜びはないと思います。これこそ、努力と成果の客観的評価にふさわしい分野なのではないでしょうか。少しでも多くの皆様に私たちの演奏会を聴いていただきたい。ひとえにそうお願い致しまして、今回の駄文を閉じたいと思います。皆様、3月21日に武蔵野市民文化会館小ホールでお会い致しましょう。


2003年2月2日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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