主宰者(指揮者)ご挨拶


当団では、昨日団員総会が行われました。2004年度を締めくくり、新たな年度の活動概要が決まったわけです。2005年度は2回の演奏会を行います。まずひとつは、10月15日(土)に護国寺・同仁キリスト教会で行われる第5回特別演奏会です。ヤコブ・オブレヒトの《ミサ・カプト》を中心に、フランドル楽派の充実したモテトゥスをちりばめた演奏会となります。再三お知らせしているように、これは花井哲郎さん率いる「ヴォーカルアンサンブル・カペラ」が中心となって企画した「オブレヒト・フェスティヴァル」への参加という形をとっています。企画してくださった花井さんをはじめとする皆様のご期待に添うよう、そして各参加団体の熱演に負けないよう、今から研鑽に励みたいと思います。

ヤコブ・オブレヒトは1457年または58年に、現在のベルギーにあるヘントという町で生まれたフランドル楽派の巨匠です。ヘント、というと名指揮者フィリップ・ヘレヴェヘが率いる合唱団「コレギウム・ヴォカーレ・ヘント」の名前とともに記憶していらっしゃる方も多いでしょう。現在古楽演奏の中心地として知られるこの地域は、ルネサンス時代、音楽の最先端を担っていたのです。今年は、彼が亡くなってから500年の区切りの年にあたります。この偉大な作曲家のミサ曲を連続演奏することで日本における彼の再評価のきっかけとしよう、というのがこのフェスティヴァルの趣旨です。私たちも、こうした大胆な企画のご提案を光栄に思い、参加することとなったわけです。

とはいうものの、オブレヒトのミサ曲は演奏する者にとって相当の難物です。まず、その息の長さが並一通りではありません。《ミサ・カプト》は、全体で45分もかかる大曲です。もちろん実際のミサでは、キリエからアニュス・デイまでの5章が連続して演奏されたわけではありません。私たちも間にモテトゥスを挟みながら演奏していく予定ですが、それにしても全体を一貫する美しい模倣様式と和声を味わい深く演奏するには、緊張感の維持が最大の問題となります。またこの曲は4声で書かれていますが、各声部の音域が異常に広いのです。ある部分ではソプラノが異様に低く、またある部分ではテノールが苦しい高音域を延々と歌わなければならないなど、工夫をしなければ乗り切れない要素がたくさんあります。今回は「オイレンブルク・オクターヴォ・エディション」の楽譜を使用しますが、この楽譜のエディターの指示に従うだけでは、当団の事情ではうまくいかないと予想されます。要するに、一筋縄ではいかないのです。

それでも私たちがこの難曲に挑戦するのは、どうしてもア・カペラで、通模倣様式の曲を集中して取り上げる機会が欲しかったからです。伴奏付きの曲ばかりを演奏していると、どうしても耳は通奏低音のバスラインだけを追いかけていく癖がつきます。それは、「すべての声部が協力して音程を維持し、和声を決める」という能力を、残酷に、確実に奪ってしまうのです。今回の特別演奏会は、おそらくスコラ・カントールムの試金石となるに違いありません。団員に迫るプレッシャーは相当なものと思いますが、ここを乗り越えなければ先はない、という気持ちで取り組みたいと思います。

さてもうひとつ、第15回目を迎える定期演奏会ですが、2006年3月25日(土)に、いつもの武蔵野市民文化会館小ホールで行われます。こちらはがらりと趣向を変え、15回目の記念に相応しい、バッハの大規模な宗教的声楽曲をお届けします。若き頃の名作、カンタータの中でも最大規模を誇る第21番《わがうちに憂いは満ちぬ》、充実したモテット第2番《み霊はわれらが弱きを助けたもう》、そして輝かしい《マニフィカト・ニ長調》の3曲です。詳細は今後追ってお伝えしてまいります。

復帰して最初の演奏会となった2月、私は15年の歳月の重みを感じざるを得ない場面が多くありました。これまで当団を支えてくださったすべての皆様に、心からの御礼を申し上げます。そしてこれからも、どうかあたたかく見守ってくださいますように。


2005年3月20日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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