主宰者(指揮者)ご挨拶


第15回定期演奏会まであと1週間を切り、19日からは楽器との合わせも始まりました。本番モード全開といったところです。今回も素晴らしい客演の皆様に恵まれました。私はもちろん、団員たちにとって得難い音楽的成長の場となっていると確信します。リハーサルはこの後2回行われ、楽器だけの合わせ、ソリスト・合唱との合わせを経て本番となります。時間的には大変限られておりますが、客演の皆様の持つ高い音楽性と、私たちの真剣さを理想的に融合させるべく頑張っていきたいと思います。

世間では、「指揮者にとってリハーサルがうまく済めば、その演奏会はほぼ成功」などとよく言われますが、これは全くその通りです。手元にある指揮法の本を見ると、「リハーサルは自分の能力を最大限にぶつける場。未熟な指揮者はリハーサルで馬脚を現し、下手をすると二度と指揮台には上がれない」などと恐ろしいことが書いてあります。私のような者は、馬脚を現し続けながらも18年にわたって指揮をしているのですから、ぬるま湯に浸っているといえばそれまでかもしれません。しかし並み居る古楽のプロの名手たちを前にして、音楽的に高みを目指そうという時、甘えは許されません。おまけに、時間は限られています。有能な指揮者は、与えられた時間内にしっかりと仕事をこなします。無駄な演説と無駄な練習がないのです(大家と呼ばれた19・20世紀の一部の指揮者には当てはまりませんが、それは楽団員の方が指揮者の魅力に参っていたからだそうです)。そんなわけで、リハーサルは私にとって緊張の連続です。前夜には悪夢を見、冷や汗が出ることもしばしばです。リハーサルの終了後は、本番の終了と同じくらい、下手をするとそれ以上の解放感があります。

私は「合唱指揮者がオーケストラを指揮する」「アマチュアがプロを指揮する」という、指揮される側にとってはお世辞にも理想的とはいえない条件を背負っています。指揮者生活18年、特にスコラ・カントールムでの16年で、器楽の方々にご指導いただき、また勉強できたことは数え切れません。また、ごくわずかな期間ですが「東響コーラス」で、秋山和慶氏・井上道義氏・大友直人氏など、素晴らしい指揮者のプローべを間近に目にしたのは、私にとって大きな財産となりました。上に記した指揮法の本は、「自分を大きく見せようとするな」と説きます。それは「よくわかってもいないのに、大家の真似をするな」ということなのだそうです。自分がスコアを通じて、あるいは日々の勉強から得てきたことを、率直に、素直に自分の腕で表現するように心がければよい。奏法や、楽器の特性でわからないことは、相手の方が専門家なのだから、信頼してお任せする。いただいた意見は、とにかく試してみる。こんなふうに心がけているうちに、気がつけば、いつの間にか経験だけは積んでいたわけです。

今回も、そのような気持ちで、一切の虚飾なしに、自分をさらけ出してリハーサルに臨もうと思います。そして、3月25日には、私たちの持てる力をすべて出し切った、おおらかなバッハの音楽をお届けできると存じます。皆様と会場でお会いできますことを、心より楽しみにしております。


2006年3月21日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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