主宰者(指揮者)ご挨拶


記録的な暖冬と妙な寒の戻りを繰り返しながら、5月の声を聴きました。遅ればせながら、皆様に3月の第16回定期演奏会が無事に終了したことをご報告し、また御礼申し上げます。今回は私にとって「フレンチ・クラシカル」という新たな世界を開拓する冒険的なプログラムでした。その成果がいかなるものであったかは、いつもの通り皆様の真摯なご批判に俟つことと致します。私としては、正味93分にも及んだ長丁場のプログラムを歌いきってくれた団員と、素晴らしいサポートで私たちを支えていただいた客演の皆様に、ただただ感謝するばかりです。

今回の演奏会は、ウィリアム・コーニッシュの難曲「サルヴェ・レジーナ」で幕を開けました。この曲を演奏する団員たちの緊張の度合いたるや、それは鬼気迫るものがありました。お聴きいただいた方はおわかりと思いますが、いわゆる「トレブル・モテトゥス」(ソプラノが非常に高い音域を輝かしく歌い続ける形式)であることに加えて、下4声が極めて複雑なリズムで錯綜していくこの曲は、演奏者に尋常ならざる集中力を要求します。まず、これを技術的に歌いこなすだけでも相当な修練が必要とされるのですが、それをパートの声としてまとめていくのは、並大抵の苦労ではありません。しかも、演奏に15分以上かかる長大な曲です。実は、演奏会1ヶ月前には「はて一体どうしたらよいだろうか」と途方に暮れていたというのが正直なところです。それを本番のレヴェルまで持ち込んだのは、何より団員の気合いであり、最後まで諦めずにひたむきに取り組んだ成果だと思います。今、当日の演奏を収めた音源を聴きながら、主宰者としては反省点を色々と数え上げながらも、まずはここまで真面目に音楽に相対してくれたかけがえのない仲間たちに対して、感謝を禁じ得ません。

しかし、この成果は団員の力だけで得られたのでは決してありません。当団は常任のヴォイス・トレーナーを置いていないのですが、今回、このトレブル・パートの技術向上のため、ソプラノ団員にヴォイス・トレーニングを行いました。普段ヴォイス・トレーナーをお願いしていないことには様々な理由があるのですが、今回は団員からの提案を受け、実行に移してみました。急遽トレーナーをお願いしたのは、バッハ・コレギウム・ジャパンなどでもソリストとして活躍中のソプラノ、藤崎美苗さんです。この効果は絶大でした。藤崎さんの的確なご指導によって、たった1回のトレーニングにもかかわらず、ソプラノの発声と声量が明らかに向上したのです。これほどの即効性があるとは、私には思いもよらぬことでした。この場を借りて、藤崎様に心からの御礼を申し述べたいと思います。ありがとうございました。

合唱団というのは、そうした試行錯誤を経ながら成長し、変化していくものなのでしょう。それが肌で感じられたことは、単に演奏会を終えたということにとどまらない、大きな収穫であったと思います。他のステージについては、また次回以降のご挨拶で反省してみたいと思います。

さて2007年度の活動がスタートしました。今年度は2つの演奏会を企画しています。ひとつは11月3日(土祝)に、北区王子の「北とぴあ・つつじホール」で行われる「第6回特別演奏会」です。当団は、「北とぴあ国際音楽祭2007」の「参加公演団体」に選出されました。非常に名誉なことであるとともに、大きな責任を感じて身の引き締まる思いです。そして第17回目を迎える定期演奏会は、2008年3月15日(土)に行われます。今回はいつもの武蔵野市民文化会館を離れ、初めて川口リリア音楽ホールのお世話になります。多摩地区の方には少し遠く感じられるかもしれませんが、新宿から埼京線・京浜東北線を使えばあっという間に到着です。皆様のお出でをお待ちしております。

最後に私事で申し訳ありませんが、私はこの4月に5年間過ごした三鷹を離れ、府中市に転居致しました。三鷹の家も周囲の環境が気に入って離れがたかったのですが、府中に移って、近くにあるDIY店舗の屋上駐車場から西の山並みを見つめますと、何だかふるさとに帰ってきたような心持ちがしております。これを機に、また新しい気持ちで教育と音楽活動に取り組んで参りたいと思います。


2007年5月1日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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