主宰者(指揮者)ご挨拶


秋に予定されていた2週連続の演奏会が終わりました。どちらも関係者の皆様から大きなご援助を賜り、私たちとしては非常に恵まれた形で演奏会に臨むことができました。演奏内容についてはこれから真摯に反省し、次に活かしていかねばなりませんが、歌い終えた私たちの実感としては、今回も完全燃焼感のある、良い形でステージを終えられたことに感謝したいと思います。

東松山「折々の会・サロンコンサート」が行われた10月27日は、時ならぬ台風の接近で外は大雨となりました。冷たい雨の降りしきる中会場までの道を歩いたのですが、道の両側から梨の甘いにおいが馥郁とただよってきたのが印象的でした。会場に着くとすでにホストのチェンバロ制作家、横田誠三さんと奥様、そして数人のスタッフの皆様が会場作りをしていらっしゃいました。少し失礼な言い方になるかも知れませんが、思いのほかよく響く会場で、市民活動センターのホールという位置づけが勿体ないくらいでした。スタッフの皆様には私たちが何の心配もなく演奏できるよう、すみずみまで行き届いたご準備をいただき、本当に感謝しております。横田様からは、舞台上の団員配置、照明の明るさなどについても的確なご意見をいただきました。この場を借りて、皆様に厚くお礼申し上げます。

演奏のほうは、会場の響きが予想よりも潤沢だったので、大変に気持ちよく歌うことができました。しかし何よりも嬉しかったのは、あの豪雨の中、たくさんのお客様に演奏を聴いていただけたことです。演奏者のほうが聴衆よりも多いのではないだろうか、という演奏会を経験したこともありますが、そんな危惧は、全くの杞憂でした。普段からこのサロンコンサートを大切に育て、慈しんできた横田様のご尽力があってのことと拝察します。熱心な聴衆の皆様の心に届く演奏となり得たかどうか、それだけが気がかりです。終演の頃には雨はほとんど止み、爽やかな気持ちで家路につくことができました。

その1週間後、11月3日に行われた「『北とぴあ国際音楽祭2007』参加公演・第6回特別演奏会」のほうは、この上ない好天に恵まれました。練習のために団員が会場に揃った頃は、柔らかな秋の日射しが西に傾きかけていたところで、平和な環境の中で音楽ができる幸せを改めて感じました。こちらでも北区文化振興財団、および6名のボランティア・スタッフのご協力をいただき、会場内・受付ともにスムーズな運営ができましたことを感謝しております。

この演奏会には、195名ものお客様にご来場いただきました。ルネサンスのア・カペラ曲のみをプログラミングしたにもかかわらず、200名近い観客数となったのは大変に嬉しいことです。北とぴあでチケットを相当数販売していただいたのも、大きな要因でしょう。加えて、東京における古楽のあり方が少しずつですが変わってきているのではないでしょうか。オブレヒトを特集した「第5回特別演奏会」の時も、同仁キリスト教会が超満員となってお客様にご迷惑をおかけしたことがありました。こういったことを考えると、「器楽だけでなく声楽も。外国人アーティストだけでなく邦人アマチュア団体も。」という傾向が現れつつあるのではないかと思います。

11月3日は東松山とは趣向を変え、オープニングにジョスカン・デ・プレの「アヴェ・マリア」を置き、前半にパレストリーナのモテトゥス、休憩を挟んだ後半にジョスカンの「ミサ・パンジェ・リングァ」全曲を通すという形に致しました。ジョスカンのミサの中でも一際そびえ立つ名作を、緊張感を持ったまま一挙に演奏できるかどうかが勝負の分かれ目だったのですが、皆様はどうお感じになったでしょうか。演奏した側としては、「持てる力のすべては出した。そして疲れた。」というところでしょうか。演奏会後の打ち上げが奇妙な盛り上がりを見せたこと、酔いの廻りがずいぶん早い者が多かったのもそのせいでしょう。今回はこのあたりでいったん筆を置きますが、次回のご挨拶でさらにもう少し、私たちに貴重な経験を与えてくれたこの二つの演奏会を振り返ってみたいと存じます。


2007年11月7日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


このページのトップに戻る