主宰者(指揮者)ご挨拶


忙しさにかまけてホームページの更新を怠っているうちに、早くも第17回定期演奏会は目前に迫って参りました。現在、シュッツの「宗教的合唱曲集」のドイツ語発音を、執念深く再練習(「最後の悪あがき」というほうが正しいような気もしますが)しております。先週から、通奏低音の今井奈緒子さん・高群輝夫さんをお迎えしたリハーサルも始まりました。リハーサルの時期は私があらゆる意味で極度にナーバスになるのですが、今回もお二方にあたたかくまた適切なアドヴァイスをいただいて、私の方もやや緊張がほぐれたところです。

今回、今井奈緒子さんに1ステージをお任せして、バッハの「クラヴィーア練習曲集第3巻」の冒頭にある大コラール(ペダル鍵盤を使用する大規模なコラール編曲)をお聴きいただくことになりました。この場をお借りしまして、演奏してくださる今井さんに心からの謝意を表したいと思います。「なぜ合唱団の演奏会なのに、これだけ充実したオルガンのステージがあるのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、これは今回のテーマ「第一作法の系譜」に沿った選曲です。一部、演奏会プログラムの解説と重なる部分がありますが、ここで一言しておきたいと思います。

この演奏会でも、実はバッハの声楽作品は取り上げてみたかったのです。バッハはもちろん「第二作法」に基づいたレチタティーヴォやアリアの作曲の名手であると同時に、「第一作法」、つまり対位法音楽の大成者です。バッハの合唱曲、といえば当然まずは「モテット」(BWV225〜229)が思い浮かびます。しかし、モテットは独立した器楽の伴奏を持たない代わりに、声楽部分自身が器楽的な発想に貫かれ、協奏曲やオルガン曲の「プレリュードとフーガ」の様式を援用して書かれているのです。バッハのモテットは、今回演奏する「歌詞ごとに与えられた声楽的なフレーズ(=歌いにくい音程跳躍を持たない。細かい音符でえんえんとメリスマを歌うようなことをしない。などの特徴を持つ)を、各声部に展開していく」という曲のあり方とは、完全に一線を画しています。一方、カンタータの中にはこうした条件に適合する合唱曲がたくさんあります。これは「古様式」の曲と呼ばれますが、パレストリーナなどが作曲していたモテットに準ずる、という意味で「モテット様式」と言われることもあります。「モテット」は「モテット様式」ではなく、カンタータが「モテット様式」だ・・・こうなるとわけがわからなくなってきますが、とにかくカンタータの中の合唱曲には、この演奏会のテーマに合致する曲があるのです。しかし、それをカンタータから抜き出して適当に並べても、レクチャーではないのですから、あまり演奏会としての感銘は期待できそうにありません。

そんなわけで、今回、バッハにおける「第一作法」が最も純粋な形で、また最も窮めつくされた曲を選ぶにあたって、私は声楽曲を断念し、せっかく今井さんをお迎えしていることでもあり、リリアの大オルガンを弾いていただくことにしたのです。「クラヴィーア練習曲集第3巻」は、バッハがオルガンにおけるコラール編曲の可能性を、極限まで追究した作品です。ここには大小のコラール編曲とともに、素晴らしい変ホ長調のプレリュードとフーガ、そして「デュエット」4曲が含まれており、その構成意図は現在まで多くの謎に包まれています。今回演奏される3曲は、いずれもアラ・ブレーヴェ、つまり古い記譜法に由来する2分の2拍子で書かれており、激しい跳躍音程を伴わない、穏やかな旋律が模倣されてコラールの定旋律を彩ります。一聴するといかめしく、取りつきにくい感じを受けるかもしれませんが、その荘厳で数学的秩序に彩られた世界は、バッハの到達した至芸とも称すべき領域に属しています。私たち合唱団の奮闘とともに、今井さんによる名曲の名演にも、是非ご期待ください。

さて今回の演奏会では、シュッツの「宗教的合唱曲集」から、旧約聖書からテキストをとった曲(第1・2曲)を取り上げます。「創世記」49章8〜12節がそれですが、なかなか難解です。団員からも何を意味しているのかよくわからない、という声があがりました。そこで、当団の高橋恵美がこの部分の解説を作成したのですが、団員以外の皆様にとっても有益な情報になると考え、明日から集中連載の形で当ホームページにアップすることに致しました。ご愛読賜れば幸いです。では皆様と3月15日に川口リリア音楽ホールでお会いできることを楽しみにしております。


2008年3月8日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


このページのトップに戻る