主宰者(指揮者)ご挨拶


3月15日に行われた第17回定期演奏会は、川口リリア音楽ホールに181名のお客様をお迎えして無事に終了いたしました。皆様のご支援に深く感謝いたします。今回は「第一作法の系譜」というやや小難しいタイトルがついていたせいか、あるいは初めての会場で遠くなった方がいらっしゃたのか、定期演奏会としては久々に集客が200名を大きく割り込む結果となりました。今後、改めて対策を考えて参りたいと思います。しかし、お集まりいただいた皆様には最後まで暖かく見守っていただき、客席の熱気に支えられて長いステージを歌い通すことができました。また、川口リリア音楽ホールの皆様には最後まで懇切にサポートしていただき、本番は大きなアクシデントなしで終了することができました。この場をお借りして、厚くお礼申し上げます。

今回私たちが一番びっくりしたことは、予定外のアンコール曲演奏を行ったことです。お聴きいただいておわかりの通り、今回は器楽伴奏に頼らない、しかも対位法を駆使したバロック時代の曲を集中的に演奏したため、とてもアンコールの曲を用意する余裕がありませんでした(本当は、このコンセプトからしてどうしても演奏したい曲があり、それをアンコールにかけようと思ったのですが、本番の曲の難しさに断念した、というのが正直なところです)。第4ステージの最後の曲を終え、何回かのカーテンコールにこたえて、さて退場しようと譜面台から楽譜を取り上げようとしたその瞬間、会場のお客様の拍手が一斉に、ぴたりと止まってしまったのです。席をおたちになる方は誰もいません。客演のお二方も、示し合わせたように座ってしまわれました。極度に張りつめた、物音一つしない静寂の時間が刻々と過ぎていきます。合唱団の「どうするのだ」という表情が視界に入ります。私の頭は一瞬、思考力を完全に失いました。その次に、「これはやるしかないだろう」という決意と「やるとしたら、演奏会を締めくくるために配置した曲をもう一度やるしか手はない、それ以外の曲は演奏会の流れを完全に断ちきってしまう」という考えが脳裏をよぎりました(もちろん、合唱団員は「もうそんな気力も体力も残っていないよ」と言うだろうなとも思いましたが)。腹を決めたら実行するだけです。スコラ・カントールム18年の歴史の中で、事前の段取りになく、その場で指揮者が決断して予定外の演奏を行ったのは、実は今回が初めてのことです。

毎回演奏会をするたびに思うことですが、「こんなに地味な曲目なのに、こんなにお客様が喜んでくださるとは。だから生演奏はやめられない」と実感します。客席の熱気がストレートに伝わり、自分たちでも思いも寄らなかった力が湧き出てくる瞬間というのが、本当にあるのです。アンコールにシュッツの「宗教的合唱曲集」第20番《それは確かなまことである》を演奏するということになって、団員はおそらく、もう一度緊張感を持って歌い通せるかどうか、かなり不安だったと思います。しかし客席からの期待が、それに打ち勝つパワーを与えてくださったのです。事実、アンコールの演奏は私自身がかなりトランス状態となったにもかかわらず、合唱団はよくついてきてくれました。客演のお二方も、少し酔っぱらい気味の棒に的確に応えてくださいました。本番と違い、やや肩の力が抜けたこともあって、この演奏は本番と違って、純粋な「音楽する喜び」を心ゆくまで味わうことができました。技術的な云々はあるに決まっているのでしょうが、このような瞬間を客席の皆様と共有できたことに、今、心からの感謝の念を禁じ得ません。

今回はとりわけ、客演の高群様・今井様、楽器を提供してくださった石井様に、あらゆる面でお世話になりました。特に今井様にはお忙しい中にもかかわらず、バッハの難曲を見事に演奏していただき、感謝の言葉もありません。合唱団、特に指揮者としての私個人がうっかり落としていたり、未熟だった点について、お三方から懇切なアドヴァイスをいただけたのは、私たちにとって望外の幸せでした。もちろん、それはそれとして、この演奏会の演奏自体は真摯に反省されなければなりません。これから録音を聴き、至らない点については次に向けて練習を重ねて行くのみです。合唱団ではこれから恒例の総会が開かれ、来年度の企画・予定が決まります。決定次第、当ホームページにて発表いたしますので、お楽しみにお待ちください。それでは、2008年度も合唱団スコラ・カントールムをよろしくお願い申し上げます。まずは第17回定期演奏会の無事終了に感謝して、ご挨拶と致します。


2008年3月23日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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