主宰者(指揮者)ご挨拶


第19回定期演奏会は、武蔵野市民文化会館小ホールに308名のお客様をお迎えして無事に終了致しました。今回ほど、この「無事に」という言葉が重みを持って感じられる演奏会はありません。それは音楽的な意味でもそうですが、一つの演奏会を成立させるという総合的な観点から見て、《ミサ曲ロ短調》を演奏すると言うことは大変な難事業であったからです。

細かい話になりますが、客演のスケジュール繰り、リハーサルの会場確保、段取り、当日の進行などは、普段であれば、私や団員が「例年の調子」でこなすことが出来る範囲のものです。しかし、《ミサ曲ロ短調》のような難曲・大曲になりますと、演奏者は音楽への集中力を第一に考えなければならないのに、事務作業は飛躍的に増える、という矛盾した難題を抱えることになります。私が20年前にこの合唱団を立ち上げたときは、「主宰者として、音楽のみに関わるのではなく、事務的側面を重視し、主体的に仕事をしていこう」と決心し、かつそれを実行してきました。むしろ団員こそ、余計なことを考えずに合唱を楽しむべきだと信じていたからです。その気持ちは現在でも変わることはありませんが、全部を一人で負うのは無謀であり、団員に補助してもらいながら切り抜けてきた、というのが事実です。そして今回、私は練習の段階から「《ミサ曲ロ短調》は、雑務をこなしながら本番を迎えられるほど甘くない。団員の協力を切にお願いしたい」と訴えてきました。

様々な仕事を投げられてしまった団員は、戸惑いも大きかったと思います。しかしこの20年で「皆が一つになって演奏会を作り上げるのだ」という意識が浸透していたのでしょう、当日私は何の心配もなく、指揮者としての役割を全うすることが出来ました。団員全員に心からの感謝を捧げますが、その中でも特にステージマネージャーの木下、団を統括する山崎、会計を担当する長岡・福西の名前を挙げて謝意を表する必要を感じます。また、お客様対応での大きなトラブルは起きていないはずですが、それは団員の頑張りとともに、受付をお願いしている皆様の誠実な仕事のおかげです。演奏会場にいらっしゃった皆様は、受付でいつもかいがいしく仕事をしている、眼鏡と髭の青年を覚えておいででしょう。彼は10年以上も当団の受付を統括してくださっている秋田さん(元団員でもあります)で、私たちが全幅の信頼を置いてすべてをお任せしている人物なのです。こうした方々に支えられて初めて、《ミサ曲ロ短調》の演奏は現実のものとなりました。

当日の演奏に関しては、お客様のご判断にお任せするより他にありません。私にも団員にも完全燃焼した充実感にはひとしおのものがあり、客演の皆様の力演にもただ感謝するばかりです。演奏を聴かれた皆様からも、大変に好意的な感想・コメントを頂戴し、演奏者としてはきっと満足に値するものになったのだろうと思います。その中で一つだけ、個人的な感慨を申し述べることをお許しください。演奏会後の打ち上げに、お忙しい身にも関わらず多くの客演の皆様が参加してくださいました。その中で、コンサートマスターの桐山建志さんが「ヨハネ(2000年)、ロ短調と来たら、次はもう、『あれ』しかないですよね。是非ご一緒しましょう。」とおっしゃってくださったこと。そして、オルガンの今井奈緒子さんが「通奏低音奏者冥利に尽きる演奏会だった」と握手をしてくださったこと。この二つは、おそらく私が死ぬまで忘れることのできない感動であったと確信致します。

今回は様々な要因が重なって、集客数が予想よりも伸び悩みました。もっと多くの方に聴いていただけたら幸せだったのに、と思う部分もございます。次回以降、広告にもまた工夫を重ねて参りたいと思います。4月から、また気持ちも新たに21年目の第一歩を踏み出します。今後とも、御支援と御鞭撻をお願い申し上げます。


2010年3月16日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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