主宰者(指揮者)ご挨拶


前回のご挨拶から3ヶ月が過ぎました。更新だけは何とか1ヶ月に1回のペースで行ってきましたが、前回のご挨拶の冒頭に「昨日東京には雪が降りました」などと書いてあるのを見て、自分で苦笑していたような次第です。この3ヶ月、定期演奏会に演奏するバッハの「イエスよ、わが喜び」とドメニコ・スカルラッティの「スタバート・マーテル」を中心に練習を進めて参りました。しかし実は4月にもう一つの演奏計画が持ち上がり、その細部を詰める作業も併行していたのです。

4月末、国際基督教大学の伊東辰彦教授から私のもとに一通のメールが届きました。以前に当団の演奏会を聞き、いつか国際基督教大学のクリスマス演奏会に出演してもらいたいと考えていたのだが、今年12月12日日曜日に出演の可能性はあるだろうか、という内容のお問い合わせでした。大変にありがたいお話で、早速お引き受けする方向で話は進んでいきました。基本的には合唱団のみのステージと、礼拝堂のリーガー・オルガンを使ったステージを組み合わせることで一致し、そこにどなたかソリストのステージを挿入して多彩なプログラムにしようということになりました。その後の打ち合わせで、伊東先生から「波多野睦美さんに出演していただけそうだ」というお話を伺ったのですが、これには本当にびっくりしました。もちろん私は何度も波多野さんのステージを拝見したことがあり、その歌唱力、表現力、身体全体から出てくるオーラに圧倒されていたのですが、このような形で共演がかなうとは夢にも思っていなかったのです。そして波多野さんがオルガニストを探してくださることになったのですが、なんと今井奈緒子さんが出演したいと言ってくださったのだそうです。波多野さんも「ここ何年も共演していないし、是非」ということで、話はあっという間に決まりました。私としては、「波多野+今井+スコラ・カントールム」という組み合わせで演奏会ができるなどとはいまだに信じられない思いで一杯ですし、また責任の重さを痛感する次第です。ただクリスマスの演奏会ということですので、変に緊張した雰囲気で合唱団が独り相撲をとらないように、聴いていただく皆さんと私たちがともに楽しめるようなステージを心がけたいと思います。

選曲にあたっては、「普段皆さんが演奏したいと思っていて、この機会にできるというような曲があれば、それを優先してください。まず合唱団の皆さんが楽しんでください」と伊東教授に励ましていただきました。一つだけ、「ガブリエリが聴きたい」というお話でしたので、ジョヴァンニ・ガブリエリの分割合唱様式の曲を選んだ他は、私たちの自由にさせていただいたのです。波多野さんとも相談の上試行錯誤の上に選んだ曲が、「コンサートのお知らせ・今後の活動予定など」に掲載したラインナップです。このうち「目を留めよ、わが心よ」は真の作曲者がよくわかっていない曰く付きの曲で、コラール変奏の形を取りながら「ゆりかごを揺らすトレモロ」が出てきたり、テノール2部が音階を駆けめぐったり、と面白い特徴を持っています。いつか演奏会で取り上げてみたいと思いながらも、うまくコンセプトにはまらずに放置したままになっていたのですが、この機会に演奏できることを嬉しく思います。またバッハのカンタータ第64番「見よ、父のわれらに賜いし愛のいかなるかを」は、冒頭合唱曲がモテット様式で書かれた厳しい曲想を持つカンタータで、クリスマス気分とは懸け離れた荘厳さが漂います。この曲を演奏するにはかなり勇気が要るのですが、オルガン伴奏でも十分な演奏効果があること、古めかしさがかえって新鮮に聞こえるであろうこと、波多野さんに素晴らしいアルト・アリアを歌っていただけること、などが決め手となりました。これもこうした機会でなければなかなか取り上げることができない曲なので、私は大変に幸せです。そして波多野さんと今井さんという名手によるパーセルやヘンデルを間近で聴くことができるのも、今から本当に楽しみです。

そんなわけで、思いも寄らない形でまた一つ、演奏機会を与えていただくことになりました。当団のような小さく非力な合唱団を評価してくださり、オファーをいただくというのは、私たちにとって励みにも誇りにもなる出来事です。しっかり練習して本番に臨みたいと思います。国際基督教大学といえばその広大な敷地、素晴らしい自然と教育環境で名を知られた大学です。師走の散策を兼ねて、12月12日には皆様お誘い合わせの上国際基督教大学礼拝堂(JR中央線三鷹駅または京王線調布駅よりバス)に足をお運びくださいますようお願い申し上げます。


2010年7月18日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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