主宰者(指揮者)ご挨拶


あけましておめでとうございます。合唱団スコラ・カントールムの22年目となる新年がスタート致しました。本年も皆様の変わらぬご指導とご支援をお願い申し上げます。

昨年は、個人的には多忙を極めた一年間でした。年齢的に考えれば教育の世界での責任が増したことは当然と申せましょうし、八年越しの執筆となった『カール・リヒター論』を発刊するためにラスト・スパートをかけていたこともあって、あっという間に時間が過ぎていったというのが正直なところです。当団にかける熱意も気力も昔と変わってはいないのですが、なかなか体力的な厳しさを痛感するようになってきました。今年は少し余裕を持って諸事に臨みたいものだ、と願うこと切です。

今年は、年明けすぐの2月13日に第20回定期演奏会が控えております。昨年12月のクリスマス演奏会から一気に気持ちを切り替えて行かなくてはなりません。今回のプログラムがかなり「渋い」ものであることは、ご案内を見ていただければすぐにおわかりになるでしょう。バッハのモテットの中でも最高傑作の評が高い「イエスよ、わが喜び」と、ドメニコ・スカルラッティの、これも彼の宗教曲の中では最高の作品という地位を揺るぎないものとしている「スタバート・マーテル」の組み合わせですが、両者とも合唱団に高度な技巧を要求しながら、それが外面の華やかさには全く関係のない、内面的な論理性やアフェクトの呈示につながっているところが心憎いのです。こうした演奏会を実現できるのは、ある面アマチュアの特権と言ってよいのかもしれません。少しでもバロック時代の声楽曲に興味のある方にはビッグ・ネームかも知れないけれど、一般にはあまり親しまれていない、という曲を取り上げて紹介することには、必ず何らかの意味があると私は考えております。アマチュアの名に甘んじることなく、精一杯の演奏を行い、聴く方に喜んでいただけるコンサートを目指して、あと僅かな日々ではありますが練習に励もうと思います。

さて今度の演奏会ではこの他に、3人の作曲家のモテットを演奏致します。トマス・ルイス・デ・ビクトリアの「アヴェ・マリア」(8声)、アレッサンドロ・スカルラッティの「主を讃えよ」、ヨハン・クーナウの「わが魂は憂いて」です。この3人は、バッハまたはドメニコ・スカルラッティに深く関わっているのですが、その関わり方を正しく答えられる方は相当のファンの方ではないでしょうか。演奏会では5名の音楽家に張りめぐらされた糸がときほぐされると思いますが、頭でっかちな形で演奏を聴いていただくのも本末転倒でしょうから、そうした隠し味はそれとして、純粋に音楽を楽しんでいただけるように工夫したいと考えております。どうぞご期待ください。

この他、私のたっての願いで、今井奈緒子さんにはバッハのオルガン・コラール「イエスよ、わが喜び」とコラール・パルティータ「ようこそ、慈悲あつきイエスよ」BWV768を弾いていただくことになりました。合唱団が演奏するバッハのモテットとの関連があるのはもちろんなのですが、BWV768は私の(すでに遠くなった)青春時代に何度も繰り返して聴いた思い入れの強い曲(であるとともに、こっそり白状してしまうと、青春時代の想いを引きずって、私が今、必死に練習中の曲)なのです。個人的な思いを優先してプログラミングするつもりは全くないのですが、今回は偶然の一致ということでどうかお許し願いたいと存じます。

では、今年が皆様にとって良いお年でありますように、また2月13日に武蔵野市民文化会館小ホールでお会いできることを祈っております。


2011年1月1日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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