年の瀬を迎えました。クリスマス関係の演奏会や「第九」が多く聞かれる季節になったわけです。このところ多忙にかまけて演奏会に出かけることもままならない私ですが、先月末から今月にかけて、二つの演奏会に行くことができました。いずれも私自身、そして当団に関係の深い団体の演奏会だったのですが、いろいろと教えられ、考えさせられることが多く、勉強になりました。
まず驚いたのが、11月25日に行われた「早稲田大学・日本女子大学室内合唱団」の定期演奏会です。ヘンデルの「メサイア」を約30名の学生だけで演奏する、しかも本格的な練習期間は3ヶ月程度、という話を聞いたときには、学生の持つパワーに期待しながらも、不安の念がよぎったのも事実でした。しかし当日、彼らはこんな不安を吹き飛ばす見事な熱演を披露してくれました。このような大曲を学生の力だけで歌いきるということの喜びに溢れ、小賢しいテクニックに走らず、思い切り自分の体を楽器として鳴らしていたこと、そして演奏としての破綻を感じる部分がないレベルまで歌い込んできたこと、これらが全ての技術的な弱さを越えて、聴く者の心に訴えかけてきたことにびっくりしたのです。これは、間違いなく指導者である青木洋也さんの見識の深さによるものだと思います。率直に言えば内声部のバランスの取り方、特にテノールの発声にはまだまだ改善点があると思うのですが、それを下手に刈り込まず、彼らの持つ「声の力」を減殺させずに、ひたひたと迫る曲全体の緊張感の維持に生かしていた点は大変勉強になりました。またそれを可能としたアルトの学生たちの実力にも、大きな賛辞を送りたいと思います。翻って当団は「精緻なアンサンブル」を目指しており、また扱う曲の性質上どうしても「まとめにかかる」ことが多いわけですが、一人一人の声という素材を大事にすることを忘れるな、と諭されたような気になったのです。
もうひとつ、「練習は裏切らない」という当たり前のことを改めて痛感致しました。学生の特権は何はさておき「時間に恵まれている」ということだと思いますが、週3回の練習を密度の濃いものにすることで、たった3ヶ月の練習がわれわれ社会人の一年の練習に匹敵する成果を挙げうることに驚愕したのです。私たちの活動はどうしても社会生活に制約され、団員が全員揃っての練習など考えられないのが事実です。それを十分覚悟した上で計画しなくてはならないことはわかってはいるのですが、こうした学生の「伸び具合」を目の当たりにしてしまうと、あまり社会人であることに甘えていてはいけないのではないか、私を含む各人が時間を作り出す努力をしなければならないのだろう、という自戒の念が生じたのです。また限られた練習を有効なものにできるかどうかは、指導者の手腕にかかっているわけですから、ここでも青木さんの優れた能力に感嘆せざるを得ません。当団は指揮者を含めて「全員アマチュア」であり、全員で作り上げていくという違いはありますが、それでも練習のリーダーが私であることに間違いはないのですから、ここでも大きな反省を余儀なくされました。
もう一つ、昨日(12月3日)に行われた「コンセール・モロー」の演奏会にも足を運ぶことができました。この合唱団は創立以来17年間、スペイン・ルネサンスのポリフォニー音楽を専門に歌い続ける、という姿勢を崩さずに活動しています。まずこのように特化した合唱団が20年近くも存続しているということ自体が驚くべきことで、おそらくプロのアンサンブルでは日本の現状から見て不可能なことだろうと思います。アマチュアゆえにじっくりと取り組めるジャンルを選び、それにとことんこだわるというあり方は、彼らのほんの少し先輩である当団にとっても大きな示唆を与えてくれたような気がします。演奏レベルもここ数年驚異的に充実の度合いを増しており(しかも指揮者は私と同じアマチュアです)、私が彼らから学ぶところもまた大きいことは間違いありません。
私は合唱指揮者としての経験だけは長くなりましたが、こうして外の刺激を受けてみると、至らぬところがあまりにも多いことに愕然と致します。幸い、今年からまた一人の歌手として歌う機会を得ることもできましたので、その面でも日々勉強を重ねていきたいと思います。また年末にかけて本業のほうが忙しくなってしまいますが、それを言い訳にせず、精進しようと思うこと切な年の瀬です。
2011年12月4日
スコラ・カントールム代表
野中 裕