様々なことがあった2011年が暮れていきます。音楽活動を続けていられるだけでもありがたいと思わなければならないこの年、合唱団スコラ・カントールムは新たな団員を5人も迎え、より活気に溢れた練習を行うことができました。望外の幸せと言わざるを得ません。確かに4月以降、私たちは演奏会を開くわけでもなく、月に3回ないし4回の練習だけを、ただひたすら行って参りました。それでも音楽の持つ力の大きさでしょうか、少なくとも私は毎回新しい発見があり、新しい課題が見つかることに大きな喜びを覚えております。新しい団員を迎えてまた少し声の「色」は変わりつつありますが、それに対して積極的な気持ちで取り組めるようになったのは、年齢の成せる業なのでしょうか。
22年前、10名ほどの有志を集めてこの合唱団を立ち上げたとき、もちろん私の頭の中には「少人数の精緻なアンサンブル」という理想がありました。そしてその理想は今でも全く変わることなく存在し続けています。しかしそれから22年、古楽を取り巻く環境はいくつかの変遷を見せました。最近はいわゆる「リフキン方式」をとるバッハ演奏に代表されるように、各パートを一人で演奏する方式が大変な勢いで浸透しています。ルネサンスの声楽ポリフォニー音楽(モテトゥスやマドリガーレ)では、懐かしい1970年代の「プロ・カンツィオーネ・アンティクァ」の演奏をはじめとして、この「1パート一人」という方法は早くからその権威を確立していました。それがバッハでも聴かれるようになったわけです。リフキンのバッハ演奏は自らの研究に基づく大変に知的な考察の結果であり、その成果については賛否両論ありますが、バロック時代までの「合唱」のイメージを根底から覆す壮大な試みであることは確実です。そんな中、私たちの合唱団は時代と逆行するかのように人数を増やし、いまやバッハの二重合唱を各パート4〜7名で編成することができる団体となりました。
しかし私は、この合唱団の在り方が、本当に「時代に逆行している」などと考えたことは一度もありません。確かに15世紀の初期フランドル楽派のモテトゥスを演奏するには、少々膨れすぎの人数であることは否めません。ところがもともとこの時期の声楽ポリフォニー楽曲はアルトとテノールの音域がほぼ同じのものが多く、アマチュアの混声合唱団が演奏するには相当レパートリーを厳選しなければならない性質のものなのです。逆に16世紀の楽曲、特に最近私たちが特に好んで取り上げているラッススの作品などは、その分厚い和声連結の魅力は、ある程度の規模を持つ合唱でなければ表現できません。またバッハについても、「薄い響き」が「ポリフォニーの綾を明確に描き出す」のは事実でしょうが、バッハの天才的な和声の力や、音楽の推進力を表現することを考える時には良いことずくめとは限りません。「1パート一人」も「1パート2〜3人」も、いわゆる「合唱」も、それぞれの存在意義を保ちながら、およそ音楽に真摯に取り組む者たちに、それぞれに適合する形で道を開いてくれるだろう、というのが私の基本的な考え方です。
私たちは「合唱」を楽しむ。その上で、いかに目標である「精緻なアンサンブル」を組み立てていくかが問題となるわけです。団員との対話を大切にしながら、いかに音を「ブレンド」していくのか。苦しいけれど、大きな喜びを与えてくれる新しい年が、もうすぐ始まります。皆様もどうぞ良いお年をお迎えください。
2011年12月30日
スコラ・カントールム代表
野中 裕