主宰者(指揮者)ご挨拶


第21回定期演奏会は、3月18日に武蔵野市民文化会館にて250名のお客様をお迎えし、無事に終了することができました。それから1ヶ月半の間、このホームページの更新ができずにおりました。毎度のことではありますが誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。そしてご来場いただいた皆様、バッハで素晴らしい通奏低音を聴かせていただいた客演のお三方をはじめ、お世話になった皆様に感謝を捧げたいと思います。

ホームページの更新ができなかったのは、4月に行われる当団の総会を経て、今年以降の活動方針がはっきりしてからすべてをアップしようと思ったからです。以前から「ほのめかし」のような表現で何となく告知してきたのですが、今総会にて、バッハの「マタイ受難曲」BWV244を演奏する方針が固まりました。時期は、おそらく2014年の上半期になると思います。これから客演の皆様との交渉、会場抑えなどを経て正式に発表となりますが、ひとまずこれから2年間の見通しが立ちました。

この方針が団員の中で是とされるまでには、実は5年以上の歳月がかかっています。私たちはバッハを専門に演奏する団体ではありません。むしろバロック時代の声楽曲のみにレパートリーを限定することを避け、ルネサンス期の無伴奏ポリフォニー楽曲を、アンサンブルではなく合唱で表現することにレゾン・デートルを見いだしてきた合唱団です。今回の定期演奏会でもオルランドゥス・ラッススの大曲を2曲取り上げましたが、そのあたりに私たちの「意地のようなもの」を感じてくださる方も多いのではないでしょうか。しかし現在の団員たちには、ひとつの演奏会をしっかりとやり終えた感慨はそれとして、これで満足してはいられない、もっと耳と技術を研ぎ澄まさなければ、という意識が、いつにも増して非常に強く感じられます。私も同様です。基本的な力をもう一度見直し、鍛え直していく愚直さが今、求められているのではないか。そんなふうに、団としての意識はひとつに固まったように見えます。私としては大変に嬉しいことです。

そうした中、どうしてバッハに立ち返り、二重合唱と二群の器楽を要求する大作を演奏しようとするのでしょうか。私自身も悩まなかったわけではありません。しかし、ここ10年ほどかけて定着してきた団員の顔ぶれ、その人数と実力、そしてアマチュアである私たちに協力を惜しまず、御指導御支援をいただいている客演の皆様の存在、という要素を考えたときに、「団員の意識が高まっている今だからこそ、マタイを演奏するべきだ」という考えも浮かんでくるのです。「団員の意識が高まっている今だからこそ、ルネサンスの宗教曲を再勉強しなければ」という思いももちろんあって、両者の矛盾葛藤には、私だけでなく団員も悩みました。最後は、バッハの音楽が私たちを呼び寄せたというべきでしょう。主宰者兼指揮者として、私は責任を持ってこの大作に挑む決心を致しました。思えば23年前、創立時には雲をつかむような見果てぬ夢だった話が、いままさに実現しようとしているわけです。主宰者個人の感情の吐露でしかないというお叱りは重々承知の上で、しかしそれでも非常に感慨深いものがあります。

とはいえ私たちは、「マタイ」に魂を売るわけではありません。次回定期演奏会では、パレストリーナの名作「ミサ・ブレヴィス」を演奏致します。「団員の意識の高まり」を「技術力」に転化させるため、1年をかけて、ポリフォニーのお手本、純粋対位法の結晶とも評すべきこの傑作を相手に、じっくりと練習を重ねようと思います。またバッハのカンタータ第4番・第78番も取り上げますが、この2曲については、曲が内包する豊かな精神世界を実際の音として表現する方法を探るため、発声とドイツ語の発音に意を配るつもりです。もう1曲、バッハの息子ヨハン・クリストフ・フリードリヒのモテット「目覚めよと呼ぶ声あり」を演奏します。これは逆に「みんなが真面目に取り組む今だからこそ」こんな曲も取り上げてみたい、という曲です。バッハ一族には、一昨年のクリスマス・コンサートで演奏した「目を留めよ、わが心よ」に代表される破天荒な曲も珍しくなく、これもそうした「珍品」のひとつに数えられるでしょう。どう料理していくか、今から楽しみです。次回定期演奏会は2013年2月11日(月祝)に、当団としては初めてお世話になる「三鷹市芸術文化センター風のホール」にて開催されます。どうぞご期待ください。

様々な決定に時間はかかりましたが、今私の心は将来に向かって晴れやかです。きっと団員も同じでしょう。2012年度の合唱団スコラ・カントールムに、どうぞ倍旧の御支援と御指導をお願い申し上げます。


2012年5月3日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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