主宰者(指揮者)ご挨拶


偶然ではありますが、今年は世間のお盆休みに合わせて休暇をいただくことができました。長い間放置していたこの「ご挨拶」をやっとのことで更新することになります。4月以来仕事に追われる日々が続き、とても「ご挨拶」など書いていられないという状態になってしまったことを、まずお詫びしたいと思います。私も四捨五入すれば五十代ですから、仕事での責任が増さないほうが問題でしょう。現在の忙しさとどのように付き合っていくかが、今後の私の課題だと思います。

そう申しましても、この1年ほどの間に様々な音楽上の経験をすることができました。「歌えない合唱指揮者」という状態を脱するために「東京バロック・スコラーズ」の門をたたいたのがちょうど昨年の今頃でした。幸いなことに入団を認めていただき、バッハの「クリスマス・オラトリオ」「マタイ受難曲」を歌えたことは大きな収穫でした。とりわけ、「クリスマス・オラトリオ」でアリアを、そして「マタイ受難曲」抜粋公演で福音史家を歌わせていただけたことは、私にとって貴重な勉強の場となりました。私の歌唱では、技術的にはお話にならないレベルのものであることは間違いありません。しかし団員に対してこうした機会を大胆に与えてくださる団と指揮者の姿勢には本当に感謝していますし、大きな刺激を受けました。そして7月1日に行われた「マタイ受難曲」本番では、数週間前と全く見違えるほどのアンサンブルを実現した合唱団の姿に、我ながらびっくりしました。俗に合唱団が「化ける」と呼ばれる状態はスコラ・カントールムでも経験しておりますが、それを一団員として実感することができたことも、私にとって貴重な体験でした。

また私は現在の勤務先に務めて5年目になりますが、こちらでも音楽に携わることができ、勉強になることが多々あります。赴任当初から(自分としては不得手という自覚のある)吹奏楽部の顧問となり、見様見真似で何とか部員たちのお世話をしてきました。2年目からは定期演奏会で「何か演奏する」ことになり、ピアノ、サスペンディッドシンバル、トロンボーン、と部員に迷惑をかけるのを承知で挑戦して参りました。特に今年3月に演奏したトロンボーンは10年以上のブランクがあり、自分でも笑ってしまうほど音が出ない状態でしたが、それを承知で舞台に引っ張り出してくれた生徒たちには、ただ感謝するばかりです。そして全くの無償で部員を指導するOBの皆さん(常任指揮者も音楽以外の仕事を持つOBで、家庭と仕事と部活の指導をすべて大切にするその姿勢には、胸を打たれます)、学校の方針を理解して協力を惜しまない保護者の皆様に恵まれ、このような環境で教育に携わることができていることを幸せに思います。

こうして私はアマチュアの皆さんと一緒に演奏する機会に恵まれているわけですが、その方々は皆「アマチュア」として、思い上がることなく、自己の研鑽に努めていらっしゃいます。「無償で音楽に関わること」「常に謙虚な姿勢を保ち、向上心を持つこと」「自分たちの実力を客観的に見つめること」は、特にアマチュアの存在意義に直結する重要事項であり、こうした姿勢を失った団体(あるいは団員)は、アマチュアとして音楽を創造する資格を失ったも当然と言えましょう。この1年間の経験を通して私は改めてこのことを強く感じたわけですが、同時にスコラ・カントールムの現在はどうなのか、ということも大きく考えざるを得ませんでした。これは団員にとっても同じであったらしく、今年は夏に団員の自主練習が組まれています。第一義的には私の勤務が厳しい状態にあるため、練習に立ち会う時間がどうしても減ってしまったという事情によるものですが、それに対する団員の反応が「では自分たちで自主的に練習時間を確保しよう」という方向に向いたことに対して、私は心からの感謝を捧げたいと思います。

団員の中に一人でも上記の「アマチュアリズム」を理解しない者がいると、その集団のモチベーションは落ち、志向性が分裂してしまいます。創立23年目を迎えた私たちにとっても、再確認を余儀なくされる事柄です。なにやら重苦しいことを書いてしまいましたが、夏以降のスパートに向けて、自戒の意味を込めてここに記し置く次第です。まだまだ暑さが続きます。どうぞ皆様お元気でお過ごしください。


2012年8月14日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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