主宰者(指揮者)ご挨拶


新しい年が始まりました。本質的には日付が一日変わっただけで、新年になったからといって現在私たちが置かれている環境に劇的な変化があるとは思えませんが、それでも物事に区切りをつけ、決意を新たにするという点では、元旦にまさる契機はないと痛感致します。特に私たちにとっては、今年7月の《マタイ受難曲》への助走を終え、本格的な取り組みをしていくといった意味でも大きな転換点です。また年の改まりは、本格的な「売り込み」の開始ののろしでもあります(笑)。当ホームページからもチケットのお申し込みができます。是非ともお早めにお求めくださいますよう、お願い申し上げます。

昨年は約9ヶ月をかけて、譜読みと発音、各曲に込められた「受難物語」の意義を確認してまいりました。こうした基礎作業を行う中で、「一度は抜萃の形で演奏する機会を持ち、到達度を確認するとともに、自分たちが『何を歌っているのか』をしっかりと把握したい」という声が団員の中から強く寄せられるようになりました。このアイディアは、実は今回の演奏会の実行委員長から早い段階で発案されていたものでしたが、実行するとなると「どのような形で抜萃するか、伴奏はどうするか、ソロの部分はどうするか、会場確保は……」というような諸問題が持ち上がってくるのです。熟慮を重ねた結果、4月26日土曜日(開演は15:00を予定しております)に、神田キリスト教会にて、この「試演会」を催すことが正式に決定致しました。入場はもちろん無料です。

抜萃の方法ですが、福音書記事の部分はすべて演奏致します。加えて冒頭と最後の大合唱曲(終曲に関しては直前の「レチタティーヴォ」を含む)、およびすべてのコラールを歌います。コラールというとそのほとんどが4声体の単純コラールですが、例外的に「レチタティーヴォ」に組み込まれた曲が1曲だけあります(第19曲)ので、それはソロを含めて演奏します。また第1部を締めくくるコラール・ファンタジー(第29曲)は、今回の試みの趣旨に合わせて初稿の単純4声コラール(第29a曲)に差し替えて演奏します。その他のアリア、レチタティーヴォはすべてカットします。

この形を採用したのは、第一義的には「合唱練習の総まとめであるから、合唱の出番はできるだけ確保しよう」という実利的なものです。しかし、自由詩による部分をほぼすべて除くことにより、純粋な「福音書記事」を追うことが可能となります。結果として団員全体に受難のストーリーが熟知され、この企画の第一目的がより鮮明に把握できるという利点があります。当団が1999年に取り上げて御好評をいただいた、ハインリヒ・シュッツの無伴奏による《マタイ受難曲》と同じ世界を追体験し、聖書の世界に身を浸そうというわけです。加えて、バッハ自身がその挿入場所と曲を選んだ、といわれるコラールをすべて演奏することにより、その効果の絶大さを肌でつかもうという狙いです。同じ効果、つまり聖句に対する解釈や感情の吐露という点では、数々の名アリアもコラール以上の存在意義を持っています。それが欠けることで、団員は(そして聴く者も)ピカンダーの台本が持つあの濃厚な場を、逆説的に痛感することになりましょう。

この「試演会」は、あくまで自分たちの勉強として企画しておりますので、特別に客演をお呼びするようなことをせず、すべて「身内」で演奏します。伴奏はポジティフ・オルガン1台で、当団練習ピアニストの押野見真理が務めます。聖句部分には多くのソリストが必要になりますが、これも団員から選抜して充てることになっております。逆に何より必要なことは、こうした私たちの試みに興味を持ってくださり、7月の本番に向けてご意見ご感想をくださる聴衆の皆様の存在です。私を初めとして、団員全員がここをまず一つの目標地点として完成度を高め、勉強を続けて臨みます。お忙しい中とは存じますが、どうか当日は神田キリスト教会に足をお運びいただき、厳しいご批判やご提言を頂戴できれば幸いです。入場方法(整理券の発券の有無などを含めて)は、決定次第またこのホームページでご案内致します。

末筆ではございますが、今年一年が、皆様にとって素晴らしい年になりますようお祈り申し上げます。


2014年1月1日
スコラ・カントールム代表
野中  裕


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