今までもそうでしたが、バッハの大曲を演奏した後の「次の演奏会」をどのように企画するかは、いつも頭痛の種でした。当団はバッハだけを演奏する団体ではなく、特にルネサンスの声楽ポリフォニー曲を基本的なレパートリーとして堅持する方針のもとに活動しております。そう考えますと、第19回から第23回まで5年連続してバッハを演奏してきた分、「次の第24回は少し趣向を変えてみたい」という気にもなって参ります。当団には、もちろん私を含めて、毎回でもバッハを演奏したいという人間も多くおりますので、その辺をどうするか非常に悩みました。そうは言っても、いつまでも悩んでいるわけにも参りません。団員の希望を聞き、実際に歌って感触を述べてもらうなどしながら決断した結果が、「コンサートのお知らせ・チケット購入」のコーナーにお示ししたプログラムとなりました。
第24回定期演奏会には明白なコンセプトを2つ設けました。まず、「オール・ア・カペラ・プログラム」という点です。歌う側には極度の緊張と困難を強いる演奏会となりますが、「マタイ」のような大曲を演奏した後だけに、合唱団の力を確実なものとして定着させるには、楽器の力を一切借りず、自分たちだけでしっかりとしたハーモニーを作るという基礎的な作業に徹するのがよいと考えたのです。もうひとつは「温故知新」。今回の演奏曲は、すべて再演曲です。以前に演奏してから10年以上経過した曲も多く、メンバーのほとんどが初めて取り組むことになります。「今あるスコラ・カントールムの力を試し、過去の演奏とは違った魅力を引き出すこと」が目標です。特にジョスカン・デ・プレのミサ「パンジェ・リングァ」は1998年、2007年に引き続いて3回目の演奏となりますが、「良い曲ほど、何度演奏しても常に新しい課題がある」ことを意識して練習に励みたいと思います。
また今回は、久々に「古楽」以外の曲も取り上げました。特筆しておきたいのは、私にとっては懐かしいモーリス・デュリュフレの「グレゴリオ聖歌に基づく4つのモテット」Op.10(1960)を演奏することです。この曲は全曲通しても10分足らずという短さながら、そこに凝縮された作曲技法の確かさ、グレゴリオ聖歌の旋律を最大限に活かしながら密度の濃い音楽が展開していくことで、彼の作品中でもとりわけ名曲として知られているものです。私がこの合唱団を立ち上げた時、まさか20世紀の作品をレパートリーに入れようなどとは思ってもみなかったのですが、当時の団員に「この合唱団のコンセプトにぴったりだ」と勧められて演奏致しました。それが第2回定期演奏会のことですから、あれからもう22年以上もの月日が経過してしまいました。当時は15人での演奏でしたが、今回は約30人の団員での演奏となります。私自身、あの精緻かつ骨太な音の織地を今回はどのように表現し得るのか、楽しみにしております。
もう一つの「古楽外」は、おなじみのメンデルスゾーンです。こちらはバッハとの関連で考えれば、あながち例外的な取り上げ方ではないと言えるかもしれません。Op.78は第3曲を1995年、第1曲と第2曲を2002年に演奏して以来で、3曲を同時に演奏するのはこれが初めてです。メンデルスゾーンの特徴である和声の微妙な変化(特に密集位置と開離位置を絶妙に使い分ける才能)、咆吼するユニゾンが印象的な曲です。総じて、次回定期演奏会で演奏する曲はすべて「名曲」の名に恥じない内容を持った曲ばかりとなりました。曲の大きさに圧倒されないよう、心して取り組む所存です。
来年1月に創立25年を迎える当団に、どうぞ倍旧の御支援御指導をお願い申し上げます。
2014年10月3日
スコラ・カントールム代表
野中 裕