主宰者(指揮者)ご挨拶


2015年7月18日の第24回定期演奏会に向けて、本格的な練習がスタートしました。「本格的な練習のスタート」と申しますのは、演奏曲目が確定し、楽譜の購入も済み、譜読みが一通り終わった段階を指すわけですが、今回は「楽譜の購入」で思わぬ発見がありました。

ジョスカン・デ・プレの「ミサ・パンジェ・リングァ」とデュリュフレの「4つのモテット」は、以前と同じ楽譜を使用します。デュリュフレは判型その他一切変わっていませんでしたが、ジョスカン(チェスターミュージック版)は中身こそ変わりませんが、なぜか判型がほんの少し(縦に1.5p)だけ大きくなっているのです。以前の版は変形A4版と言われるもので、今回はぴったりとしたA4版ですから、おそらくは規格化したのでしょう。情報化時代の楽譜の在り方を象徴するような話です。そのうち、楽譜もダウンロードが主となる時代がやってくるのかもしれません。

しかし一番驚かされたのは、メンデルスゾーンの0p.78の楽譜でした。詳細はここに書けませんが、想像以上の高値だったのです。いくら今円が弱いといっても、こんなにするのだろうか、というような値段だったので、何か間違って注文してしまったのではないか、とはらはらしながら届いた段ボールを開けてみました。すると注文通り、カールス版「メンデルスゾーン 3つの詩篇曲Op.78」の紫色の鮮やかな表紙が目に飛び込んできました。良かったという気持ちと、「3曲しかないのに、なんでこんなに分厚いんだろう(これでは値段が高いのも当たり前だ!)」という疑問とが同時に体をよぎりました。何しろ、愛用していたペータース版では3曲合わせて17ページしかないのに、今度の楽譜は70ページもあるのです。早速ページを開いてみて、そういうわけだったのか、と納得すると同時に、己の勉強不足を痛感させられました。

ページ数が増えた理由の一つは、充実した校訂報告が付いていたからです。演奏者は得てして楽譜の「巻頭言」や「校訂報告」を読み飛ばしがち(特にわれわれ日本人のアマチュアの場合、翻訳されているならまだしも、英語やドイツ語、フランス語で書かれた文献を読む気力はなかなか湧かないでしょう)ですが、そこを読んで初めてわかることがらも多く、演奏のヒントがたくさん隠されています。私もまだざっと目を通したばかりなのですが、実はこのOp.78には異稿が存在しており、私たちが親しんでいるバージョンと異稿では、その様相がかなり異なることが指摘されていました。具体的に申し上げますと、Op.78の第1曲「なにゆえに異邦人は騒ぎ立ち」の初稿はオルガン伴奏付きで書かれており、第2曲「神よ、われらを裁き」の異稿は細部に相当の差が生じています。メンデルスゾーンについては全く突っ込んだ勉強をしたことのない私にとって、こんなことは全く予想できないことでした。むしろ団員のほうに熱心な人がいて、「You-Tubeで検索してみたら、異稿の方で演奏している映像がありました」と私に教えてくれたのです。このように複数の稿がある場合、どちらをどのような理由で採用するかが演奏上の大問題となります。Op.78の場合、第1曲の初稿=異稿はオルガン伴奏つきなので、今回の演奏は見送ります。また第3曲は異稿の存在が指摘されていないので問題は生じません。つまり、第2曲のみが考慮の対象となるわけです。これについては今後勉強を重ね、このホームページ上でもその成果をお知らせして、本番の演奏に役立てたいと思っております。この問題について良くご存知の方や、すでに異稿での演奏をなさった方などがいらっしゃいましたら、どうか私たちにそのお知恵をわけていただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。

もし、今までどおりペータース版を使っていたら、私は何の躊躇もなしに「従来通りの演奏」をしていたと思うのですが、今回楽譜を買い換えたことによって、偶然こんな事実を確認することができたわけです。同じカールス版でも、この3曲がばら売りになっているものがあります。私は10年ほど前にこの「ばら売り楽譜」を使って歌った経験もありますが、これには校訂報告や付録がありませんでした。アンテナは常に多角的に張っておくべきなのだな、と痛感させられた次第です。さて、素材が揃ったらあとは練習あるのみです。来るべき夏に向けて、今から少しずつ前進していきたいと思います。皆様の御指導御鞭撻を切にお願い申し上げます。


2014年11月18日
スコラ・カントールム代表
野中  裕

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