主宰者(指揮者)ご挨拶


東京はこの頃大変な寒さに襲われております。しかし自分が子供の頃は東京でも結構気温が氷点下となる日も多く、登校時に霜柱を踏みしめて通った覚えがあります。温暖化現象と自らの加齢に伴って、こちらの感覚が麻痺しているだけの話なのかもしれません。しかし東北・北海道地方では豪雪による被害が続いているとのことで、海外での事件の悲惨な報道と併せて、心が痛むばかりです。

こうした中、私たちは幸せなことに週1回の練習を予定通り行っております。4年前の大震災の時も、練習をすぐに復活することが出来ました。それからずっと、練習も演奏会もすべて予定通りに進んでいることは、当たり前のようでいながら大変な僥倖というべきなのだと思います。半世紀近く生きてまいりますと、発想のはしばしに「終わり」を見据えた感覚が顔を出してくるのですが、それは必ずしもネガティブなものとは思われません。私たちの生命は自分でどうすることもできないものであり、ある日突然、予想もしない形で人生が断ち切られることも覚悟しておかなければならない。残された時間を大切にしたいと感じることによって、与えられた練習の時間を少しでも充実したものにしなくては、という気になるものです。今回の演奏会は「温故知新」をテーマに、以前に演奏したことがある曲ばかりを取り上げております。これは何かしら楽をしようとか「慣れた曲で手軽に」という発想とは全く無縁のものです。限られた時間の中でもう一度手がけるに相応しい、そして以前の演奏にもまして、私たちが重ねた年輪の持つ意味を加えることができる、そんな曲を厳選したつもりでおります。

昨日の練習では、デュリュフレの『グレゴリオ聖歌に基づく4つのモテット』の第3曲、「汝はペテロなり」を取り上げました。22年前に演奏した時には、人数の都合があって私はテノール・パートを歌いながら指揮しました。私自身が「本来的には合唱団員でありたい」という思い入れもあってそうしていたのですが、本番で歌い始めた私は完全に舞い上がり、何がなにやら分からないまま夢中で演奏し、気がついたらあっという間に終わっていました。実際、この曲は「あっという間に終わる」短い曲ではあるのですが、それにしても「何かもう少し、自分に出来ることはなかったのだろうか」という思いが、演奏できた喜びとともに、どこかに残ったのも事実でした。

今回は、私は指揮に専念する立場です。今いるメンバーの中には他の合唱団でこの曲を歌ったことのある者も多く、非常に心強く感じております。昨日の練習では、団員が持っているこの曲のイメージや、様々な指揮者の解釈や演奏テクニックを私自身が学ばせてもらうことができました。ひょっとしたら、一番有意義な時間を過ごしたのは私だったのかもしれません。いつも同じことを書いて恐縮の極みですが、やはりこの合唱団は非常に団員に恵まれていると痛感します。メンバーの持つ感性とイメージを大事にしながら、それをどう統一していくか。練習の時間は、私にとって極度の緊張を伴う厳しい時間でありますが、団員に助けられて自己の音楽経験が少しずつ広がっていくことを実感できる、とても楽しい時間でもあります。7月18日までたゆみなくこの苦しさと楽しさを積み上げ、少しでも「昨日より進歩した音楽」を皆様にお届けできればと思います。近日中にチケットも発売される予定です。当日のご来場を心よりお待ち申し上げております。


2015年2月17日
スコラ・カントールム代表
野中  裕

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