主宰者(指揮者)ご挨拶


毎日をせわしなく過ごしているうちに、早くも今年最後の月を迎えようとしております。来年のカレンダーも発売されるようになり、大いに慌てているところです。私は復活した「グラモフォン・カレンダー」2016年版を見つけて購入したのですが、このカレンダーを彩る写真には、3月にヘルムート・ヴァルヒャ(没後25年)、10月にカール・リヒター(没後35年)があてられています。自分を音楽に誘った偉大な先達の死から、すでにこれだけの時間が経過していることに改めて驚きました。

さて2015年、当団の活動は「7月に定期演奏会を無事に開催した」というものでした。こう書いてしまうと随分単純なことのように思えますが、今年に関して言うと、昨年7月の『マタイ受難曲』後、団の方向性を再度確認し、客演なし、オール・ア・カペラ、練習期間1年間という条件のなかでどれだけ自分たちの実力を発揮できるか、というきわめてチャレンジングな活動だったのです。「全曲再演」というコンセプトを設けたのもそうした意識からに他なりません。私個人としては、たとえ未熟なりといえども、以前の演奏に比して何らか、活動の年輪を付け加えることのできた演奏会になったのではないかと密かに思っております。

そして思わぬ副産物がありました。この合唱団のレパートリーは、いわゆるルネサンス期のものは「フランドル楽派」、バロック期のものはバッハに代表される「ドイツ語のもの」、それ以降は基本的には演奏せず、取り上げるとしてもバッハの影響下にあるメンデルスゾーンに限定されていたのです。例外が第2回定期演奏会で演奏したデュリュフレの『グレゴリオ聖歌に基づく4つのモテット』と、第8回定期演奏会でのシェーンベルクです。今回、22年ぶりにデュリュフレを演奏してみて、団員の志向がこうした世界にかなり向いているのだということがよくわかりました。こうして、次回定期演奏会にて、20世紀フランスを代表する宗教作品の一つである、デュリュフレの『レクイエム』を演奏する下地が調ったのです。フランスものが苦手中の苦手である私に、そう尻込みせずにチャレンジしてみろ、と何人もの団員が励ましてくれたのも嬉しい出来事でした。

こうなると後は一直線で、団員たちのほうがよくわかっていたようです。フランドル楽派のポリフォニーを表現する力と、プーランクの洒落た和声を構築する力とは、別者ではありません。団員の要望で『クリスマスのための4つのモテット』がプログラムに加えられたのもある種の必然でしょう。また同じく団員の推薦で決まった、日本の合唱コンクールでもよく取り上げられるハビエル・ブストの『おお、大いなる神秘』も、難しい技巧に全く頼らない魅力的な書きぶりで、私たちの目指している音楽世界にぴったりと当てはまります。これに「絶対に捨てられない当団のレーゾン・デートル」であるフランドル楽派(初登場のオケゲムなど、年代としては同じフランドル楽派でもやや早めの世代ばかり)の作品3曲を選定して、次回定期演奏会のプログラムが成立したのです。

団員の積極的な姿勢が産み出した今回のプログラムですが、デュリュフレ『レクイエム』を演奏するには、大変な実力を持つ客演の皆様の出演が必須となります。なかでもオルガンの響きは、「むしろオーケストラ版よりオルガン伴奏版のほうがイメージに合う」とよく言われるほど魅力的なものですが、実際の演奏に伴う困難は計り知れないものです。間違いなく、第一線で活躍する名手をもって初めて演奏できる、難曲の類に入ると思います。今回も今井奈緒子さんのご出演が叶ったことは、私たちにとって最大の幸せの一つだと断言できます。そしてソリストにはメゾ・ソプラノに経験実力ともに万全の北條加奈さん、バリトンには当団団員で現在東京藝術大学大学院で研鑽を積んでいる西久保孝弘さん、そして「任意に」という作曲者の指示がありながら、これを抜いてしまっては曲全体の魅力が半減以下になってしまう重要なチェロ・パートは、こちらも何度もご共演いただいている高群輝夫さんにお願いすることができました。こんな幸せを目の当たりにして、私が「フランスものは…」などと言い訳するのは罰当たりというものです。誠実に、着実に勉強を積み重ね、皆様のご期待にお応えしたいと思います。どうぞご期待くださいますよう、お願い申し上げます。


2015年11月28日
スコラ・カントールム代表
野中  裕

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