明日から7月です。ご挨拶の更新を怠っている間に、第25回定期演奏会が10日後に迫ってまいりました。明日1日と5日には、川口リリア音楽ホールにてリハーサルが行われます。目下、その準備で緊張する毎日を送っているところです。もう25回も定期演奏会を続けているというのに、直前期の緊張感というのはいつでも同じです。お恥ずかしい話ですが、必ず一回は悪夢を見ます。大体は、本番が崩壊する夢です。飛び起きてから、夢だと気がつくまでに相当時間がかかったこともあります。
本番と同じ会場を2回も使ってリハーサルを行うのは初めてのことです。なんと言っても今回演奏するデュリュフレの「レクイエム」は、管弦楽版であってもオルガンが全てを決めてしまうほどの重要な役割を担っています。まして今回のようにオルガン伴奏版では、その難しさ、複雑さは言葉に表しようもありません。技術的な問題は勿論ですが、それ以上にオルガンの性能、そしてその性能をいかにして引き出すか、つまりレジストレーションの巧拙が大きくモノを言ってくるのです。今回、川口リリア音楽ホールの大オルガンは本番当日にも調律を入れてくださることになりました。そして大変にお忙しい中、私たちのために貴重な時間を割いて仕込み、2度のリハーサル、本番とお付き合いいただく今井奈緒子さんには、何と御礼を申し上げて良いかわかりません。
リハーサルに緊張は付きものではありますが、いざ明日にそれを控えてみると、今回は不安よりも期待のほうが大きいことに気がついて、われながら驚いています。それはもちろん練習を重ねてきてくれた団員への信頼と、合唱の仕上がりへのある程度の手応えによります。それに加えて、「リリアホールのオルガンと、合唱がひとつになる瞬間への憧憬」がまた大きいのです。今まで、キーボードの伴奏を聴きながら頭の中だけでイメージを作っていた「オルガンとの一体感」がもうすぐ得られるのだ、というわくわくした思いがそれです。明日は気の抜けない一日となるでしょうが、いよいよこの名曲が現実の音となって私たちに訪れる、その喜びを歌声にすべく力を尽くしたいと思います。レクイエムのテキストへの作曲とはそもそも、煉獄にある死者に対してその罪の許しを願い、天国へと導くために行われるものです。過度に死を悲しみ、厭い、呪うものではないでしょう。
この曲の名曲たるゆえんは、「合唱と伴奏楽器による、グレゴリオ聖歌のバリエーション」という作曲技法の冴え、強いて一言で言うならば「あまりの美しさ」であろうと思います。しかしこの曲の美しさの極点は、中心に置かれた「ピエ・イエズ」であることは論を俟たないでしょう。このわずか4分ほどの時間に、どれほど凝縮した情感が込められていることか。この曲だけに現れるメゾ・ソプラノの絶唱とチェロの切々たる響きは、聴く者の心を捉えて放しません。こんなに美しい曲がこの世に存在するとは信じられない、そんな思いさえ湧いてまいります。今回、北條加奈さんと高群輝夫さんにこの曲をお願いできたのは、望外の幸せです。そして当団の誇るバリトン歌手、西久保孝弘による「主、イエス・キリスト」と「解き放ちたまえ」のソロにもご期待いただきたいと思います。
前半のア・カペラによるステージも、リハーサルでその実際の響きを確認し、本番までに細かい修正を加えていくつもりです。チケットは、まだ若干余裕がございます。7月10日は皆様お誘い合わせの上、川口リリア音楽ホールにおいでくださいますようお願い申し上げます。
2016年6月30日
スコラ・カントールム代表
野中 裕