主宰者(指揮者)ご挨拶


あっという間に今年も最後の2ヶ月となりました。11ヶ月でたったの2回しか「ご挨拶」が書けなかったのは初めてのことです。本当に申し訳なく思います。言い訳めいてしまいますが、目の前に迫った仕事を片付けることに追われると、余裕を持って自分の思いを発信することに手が回りません。

こんな事情もあってのことなのでしょうか、最近は文章を公にすることよりも、「つぶやく」ことのほうが発信手段の主流になっているようです。それはそれで構わないのですが、ひとつの主題を掘り下げて文章の構造を整え、まがいなりにも矛盾のない(ように努力した)思考の発露ができにくい環境になりつつあることは、憂慮すべきことだと感じております。私の本業を考慮に入れればそう感じるのは当然だとも申せますが、それを度外視しても、断片的な言葉の集積だけで何かを語ろうとすることにある種の抵抗を感じるのは、私だけではないと思われます。

10月31日の宗教改革記念日に、私はこれもまことに久々に「バッハ・コレギウム・ジャパン」の演奏会を聴きに伺いました。演奏の素晴らしさはもちろんことなのですが、超多忙の中を縫って毎回コンサートのプログラムに素晴らしく充実した内容の巻頭言を寄せる音楽監督、鈴木雅明氏にも畏敬の念を覚えることしきりでありました。1年近くも「ご挨拶」をほったらかした一介のアマチュアがこのような讃辞を捧げるのも逆に氏に対してはなはだ失礼な話ではありますが、その努力と信念に学ばなければ、という新たな気持ちをもって、本日はこの原稿と向き合っているわけです。

さてこの間、当団として、有志が参加した演奏会が二つありました。一つはこのホームページでもご案内した「マーキュリー・バッハ・アカデミー」のバッハ「ミサ曲ロ短調」の演奏会(9月30日)、もう一つは宗教改革500年を記念した東京ルーテルセンター教会の「東京分区合同礼拝」に音楽奉仕で参加し、その後に演奏会を開かせていただいたことです。どちらも得難い人のつながりから実現した企画でした。関係したすべての方々に心からお礼申し上げます。

そしていよいよ、3ヶ月と少し後に私たちの第26回定期演奏会がやってきます。すでにあちらこちらの演奏会でチラシを配布し、チケットの発売も始まっております。ダイレクトメールを受け取った方もいらっしゃると思いますが、そのご案内の文章をここに少し引用させていただきます。「今回は4年ぶりにバッハの作品を演奏致します。《ミサ曲ト長調》は教会カンタータの選りすぐりの楽章をパロディにして作られております。それだけに楽曲としての聴きごたえは十分で、とりわけ合唱曲の精緻な書法には目を見張るものがございます。ルネサンス期の無伴奏宗教曲は、デ・ローレとヴェルトの特集です。両者ともフランドル出身、イタリアで活躍した音楽家で、パルマ宮廷とも関係がありました。このステージは、パルマの宮廷音楽を研究してめざましい成果を挙げ、今後の活躍が期待されながら、惜しくも昨年末に急逝した音楽学者で当団団員の丹羽誠志郎氏に捧げられます。そして初挑戦のブルックナーです。団員の熱意で実現したこのステージ、気合いを入れて練習に励んでおります。27年の歴史が培ったハーモニーの成果を皆様にお届けできると存じます」。

当団として公表するのはこれが初めてなのですが、当団団員、音楽学者で、以前このホームページを運営してくださっていた丹羽誠志郎さんが、昨年11月末に急逝なさいました。日本はもとより海外での評価が非常に高く、英語、イタリア語による論文や著書が矢継ぎ早に発表されて今後への期待がますます高まっていた中での、まさかの訃報でした。次回定期演奏会では第2ステージのすべてを、彼が半生をかけて研究したパルマにゆかりのある音楽家、デ・ローレとヴェルトの作品で統一し、在りし日の丹羽氏を偲びたいと考えております。

どうか皆様お誘い合わせの上、ご来場いただければ幸いでございます。


2017年11月3日
スコラ・カントールム代表
野中 裕

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