2019年になって初めての「主宰者ご挨拶」です。こんなに更新を欠いたのは今までにないことで、またしても深くお詫びするより他ありません。昨年から今年にかけて、公私ともに個人的な事情で身動きが取れない状態が続いております(現在進行形です)。当団の練習を運営するのがやっとの状態で、ホームページにまではどうしても力が割けませんでした。現在は勤務先の授業がない、いわゆる「夏季休業」に入っております。やや自分の時間を得ることができ、勇をふるって(大げさな言い方かもしれませんが、心境的にはこの言葉が一番よく当てはまります)この「ご挨拶」を書き出したところです。
当ホームページを更新できない間に、次の演奏会が約2ヶ月後に迫って参りました。すでにお知らせしておりますように、今回も「特別演奏会」という扱いです。教会を会場とした、入場無料のコンサートを企画致しました。これは、私がオルガンを勉強している関係でご縁を得た、2つの教会への一種の「奉仕」にあたる側面を持っております。目黒区祐天寺にあります「日本聖公会聖パウロ教会」は私がオルガンのレッスンを受けている教会です。ここには、20世紀日本を代表するオルガンビルダーである辻宏さんの傑作との定評あるパイプオルガンが設置されており、私たちはこのオルガンを用いてレッスンを受けるという幸せに浴しているわけです。また小金井市梶野町の「SDA小金井キリスト教会」の礼拝堂には、小型ながら素晴らしいガルニエのオルガンが設置されております。前回の「メサイア全曲演奏会」のリハーサルでは、この教会の集会室をお借りしてリハーサルをすることができました。場所探しに難儀していた中、教会の皆様は厳しい条件にもかかわらず私たちのために便宜を図ってくださったばかりか、当日の演奏に足を運んでもくださいました。その御礼も込めてこの演奏会を企画したところ、快くお引き受けくださいました。両教会の関係者の皆様に、厚く御礼申し上げる次第です。
今回の演奏会では、ハインリヒ・シュッツの《宗教的合唱曲集》(1648年)の前半に収められた5声曲12曲全てを押野見真理(当団練習ピアニスト・オルガニスト)のオルガン伴奏でお聴きいただきます。今回のオルガン伴奏では、当団としては初めてミーントーン(中全音律)による演奏を志しております。やや専門的な話になりますが、私たちが普段耳にする音楽は、そのほとんどがオクターブ内にある12の半音を等分に調律した「平均律」という調律法によるものです。この調律法は演奏の出来ないいびつな音程をなくし、あらゆる調への転調を許す点で優れた調律法ですが、その代わりに調の個性が失われるとともに、長三和音の美しさが犠牲となってしまいます。長三度の純正さをできるだけ保つために、平均律の登場以前には数多くの調律法が考案されておりました。その中で、最もよく使われ代表的な調律法の一つであったのがミーントーン調律法です。こうしたことの詳細に興味をお持ちの方は、専門書が多く出版されておりますのでそちらをご参照いただきたいと思います。ミーントーンをはじめとする古典調律は半音の幅に差があるのが特徴で、その歌いにくさを克服することが今回の私たちのチャレンジです。演奏会当日まで精進を続けると共に、今後も勉強を続けていきたいと思っております。それは、この素晴らしい《宗教的合唱曲集》は後半に6声・7声曲がまだ17曲も残されており、それらを含めて、私たちは全29曲の完全演奏を目指しているからです。
休憩を挟んで演奏会の後半には、教会設置の素晴らしいオルガンを用いた押野見の独奏をお聴きいただいた後、シュッツ最晩年の傑作、《ヨハネ受難曲》を演奏致します。この曲は一切の楽器を伴わないア・カペラの様式で書かれております。イエスを十字架に追いやるユダヤ人、兵士、祭司長、群衆などの役を合唱が務め、イエスをはじめとする登場人物は朗唱の形で作曲されています。聖書の「地の文」を語るように歌い、受難物語を進めていくのが「福音史家」です。中世から連綿と伝わるラテン語による聖書朗唱の伝統を生かしながらも、ルター訳ドイツ語聖書のテキストに説得力を持たせたシュッツの技量には、恐るべきものがあります。彼の多彩な力を知っていただくため、季節外れという非難は覚悟の上で、敢えて演奏することに致しました。《ヨハネ受難曲》のソリストは、イエスの西久保孝弘(当団の団員でもあります)を除けばすべてアマチュアです。お聞き苦しいところが多々あるとは思いますが、教会における奉仕という性格を持つ特別演奏会ですので、どうか大目に見ていただきたいと存じます。
今回は入場無料の演奏会で、整理券などの発行もございません。直接教会においでください。万一満席となった場合には入場の制限をさせていただく場合もありますので、お早めのおいでをお願い申し上げます。また前回の「ご挨拶」でもお知らせしましたように、この演奏会の練習と平行して、佐藤雄一さんの指揮指導による「ヴォチェス・エクスプレセ」としての活動も再開されております。第2回となる演奏会が、2020年2月に行われる予定です。こちらは、詳細が決まり次第お知らせ致します。それでは、9月にお目にかかることを楽しみにしております。
2019年7月29日
スコラ・カントールム代表
野中 裕