継続性のある文化施策を
野中 裕


「失われた10年」がどのような影響をもたらしたのかについては、私のような若輩者にはその全貌を知る由もありません。しかし、ありとあらゆる業界・領域が、否応なく激しい渦に巻き込まれているのは事実でしょう。教育の世界とて例外であり得るはずがなく(いや、むしろ真っ先に、多大な影響を受けると考えてもよいでしょう)、矢継ぎ早な、様々な改革に翻弄されている、というのが実状です。例えば東京都の高等学校では、昨年度から期末考査後の「試験休み」がなくなりました。さらに教員は今年度から「夏休みの研修制度」も廃止されました。このことの是非を問うのはこのホームページの埒外なのでやめておきますが、余裕のない時代になったことは間違いがないようです。

「余裕が欲しいのは誰も同じ、甘えてはならぬ」という意見も強くあるでしょうが、実力主義で「勝ち組」と「負け組」(こうした言葉自体、私は全く好みません)がはっきりとわかれてしまう殺伐とした社会では、文化がやせ細っていくのは火を見るより明らかです。企業のメセナ活動が衰退して、実力ある音楽家たちが大変な難儀を被っていることも見逃せませんが、文化を底辺で支えるこどもたちの活動、学校のクラブ活動、そしてアマチュアの活動にも悪しき影響が出ているのは、ゆゆしきことだと思います。

具体的には、リストラその他でひとりに割り当てられる仕事の量が増え続け、余暇を趣味にあてる時間がないのです。私たちは月に3回の休日練習と1回の平日練習を行っていますが、このところ仕事の都合で練習に出席することが難しい人たち増えてきています。これはもちろん私もそうで、団員に大きな迷惑を掛けています。私たちは、高度なレベルをもったアマチュア団体が地域文化に貢献し、日本の音楽シーンを底辺で支える地道な活動を続けていくことをとても大事なことと考え、それを実践してきたつもりです。それがここに来て大変な難局に直面している、というのが実感です。

愚痴をこぼしても解決にはなりませんので、何とか練習を工夫して合唱団のレベル向上に心がけたいとは思います。しかし、文化というものはお金と時間がかかるのです。地方公共団体や国は、教育と文化に関して、時代の波に流されぬ、継続的な支援をして欲しいと思います。バブルがはじけて一昔というこの時代、いまだに閑古鳥の鳴く公共音楽施設が作られ続け、その逆に未来を背負うこどもたちのクラブ活動予算が削られ続ける、というのはどうしても納得がまいりません。

このホームページはプロパガンダの場ではありませんが、今の私の率直な気持ちを書かせていただきました。こうした小さな声が少しずつ集まって、何かが変わればよいと念願しています。

(2002年7月14日)


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